日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ブルートゥース/Bluetooth
「Bluetooth」とは、「無線接続に用いられる通信規格のひとつで、スマートフォンやパソコンの周辺装置など複数の電子機器の情報を近距離で繋ぐもの」です。
Bluetoothを直訳すると「青い歯」になりますが、この名前はデンマーク王様であったハーラル・ブロタン(Harald Blåtand)の名に由来します。
ハーラル王は、デンマークとノルウェーを交渉によって平和的に無血統合した人物です。
無線通信は規格が乱立しており、ハーラル王が無血統合したように無線通信規格を統一させたいという願いから、この規格に「Blåtand」の英語音訳で「Bluetooth」と名付けられました。
Bluetoothのロゴも、ハーラル・ブロタンの頭文字に由来するもので、長枝ルーン文字の「ᚼ(H)」と「ᛒ(B)」を組み合わせて作られています。
「Blåtand」は「青い歯」を意味するため、ハーラル王は「青歯王」とも呼ばれていました。
「Blåtand」のあだ名が付けられた由来には、ハーラル王の歯が青黒い灰色をしていたことからという説と、「Blå」は「青い」や「浅黒い」、「tan」は「首領」を意味するため、「Blåtand」は「浅黒い首領」のことであったとする説があります。
2.フラッパー/flapper
「フラッパー」とは、「おてんばであるさま。蓮っ葉に振る舞うさま。また、そのような娘」のことです。
フラッパーは、英語「flapper」からの外来語です。
flapは「翼をパタパタと羽ばたかせる」を意味し、flapperは「まだうまく飛べない若鳥」のことをいいました。
そこから、flapperは「まだ社交界に出る前の少女」の意味でも使われるようになり、方言では「10代の少女」や「若い娼婦」なども意味していました。
1900年代前半から、自由奔放で大胆なファッションの若い女性を表すようになり、日本でも1920年代後半には、「フラッパー」が「おてんば」や「蓮っ葉」を表す語として用いられるようになりました。
3.ブザー/buzzer
「ブザー」とは、「電磁石で鉄板を振動させて音を出す装置」です。
ブザーは、英語「buzzer」からの外来語です。
buzzerは、蜂などの「ブンブン」という音を表す「buzz」を名詞化した語で、「バズる」の「バズ」と同源です。
元々は「うるさい虫」を意味した語ですが、1870年代から、工場で労働者を呼び出す際に使用する蒸気動力の笛のことも「buzzer」と呼ぶようになり、1800年代後半から電子ブザーを表すようになりました。
4.付和雷同(ふわらいどう)
「付和雷同」とは、「自分にしっかりした主義・主張がなく、むやみに他人の意見に同調すること」です。「附和雷同」とも書きます。
付和雷同は、同じ意味の言葉を組み合わせた四字熟語です。
「付和」は、付き従って相槌を打つこと。深い考えも持たず、すぐに他人の意見に賛成すること。
「雷同」は、雷が鳴ると万物がそれに応じて響くように、わけもなく他に同意すること。
付和雷同は、『礼記』の中の一節に由来するといわれます。
しかし、『礼記』には「勦説する毋れ、雷同する毋れ(他人の説を盗んで自分の説としたり、むやみに他人の意見に賛同してはいけない)」とあるだけで、「付和」は出てきません。
『礼記』に由来するのは「雷同」であり、付和雷同の語源とするのは間違いです。
5.芙蓉(ふよう)
「フヨウ」とは、「夏から秋にかけ、淡紅色や白色の花をつけるアオイ科の落葉低木」です。
フヨウは、元禄時代(1688年~1704年)以前に中国から渡来したといわれ、名前は中国名の「芙蓉」に由来します。
芙蓉は、本来、大きな花の形を意味し、唐以前は「ハス」を表していました。
楊貴妃を「芙蓉如面柳似眉(面は芙蓉の如く、眉は柳に似る)」とたとえた芙蓉も「ハス」のことで、『源氏物語』の「太液の芙蓉」も楊貴妃にちなんだ「太液池のハス」からの引用です。
本種のフヨウは、ハスに似ていることからの名で、唐代までは「木芙蓉(もくふよう)」と呼ばれていましたが、宋代以降、略して「芙蓉」となりました。
「芙蓉」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・花芙蓉 妻の病状 軽からず(末益冬青)
・白芙蓉 をりをり風の たちにけり(大和田鏡子)
・裏方の せはしさ見せず 紅芙蓉(田中藤穂)
・洋館の 窓両開き 芙蓉咲く(斉藤小夜)
6.瘋癲/フーテン(ふうてん)
「フーテン」とは、「定職を持たず、特異な容姿をしてぶらぶらと日を送っている人」のことです。
フーテンは、元々「瘋癲」と漢字表記し、常軌を逸した行動をすることや精神異常、また、そのような人に対する俗称で、明治時代には、精神科病院を「瘋癲病院」と呼んだこともあります。
谷崎潤一郎の小説にも「瘋癲老人日記」というのがありましたね。「瘋」は精神錯乱、「癲」は発作的な狂態を表します。
瘋癲が定職を持たずにぶらぶらする人を意味し、カタカナで「フーテン」と表記することが多くなったのは、1967年の夏頃からで、1960代にアメリカから広まった「ヒッピー」の影響です。
1967年の夏、夕方になると新宿東口の芝生に、汚い風体で髪を伸ばし、金をせびる若者が集まるようになり、彼らは奇声を発していたことから「フーテン族」と呼ばれるようになりました。
その後、乞食のような身なりで何もせず、ぶらぶらとしている人を指して「フーテン」と言うようになりました。
「フーテンの寅」でおなじみの『男はつらいよ』は、1968年にテレビドラマとして始まり、映画シリーズは翌1969年から2019年までに50作が制作されました。
7.ぶきっちょ
「ぶきっちょ」とは、「手先が器用でないことをいう俗語」です。
ぶきっちょは「不器用(ぶきよう)」が変化した語です。
「ちょ(っちょ)」は、「太っちょ」や「先っちょ」の「ちょ」と同じで、名詞や形容詞の語幹に付いて「である者」「のもの」を意味します。