日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ブービー賞(ぶーびーしょう)
「ブービー賞」とは、「ゴルフやボウリングなどのスポーツで、最下位から2番目のプレイヤーに与えられる賞」です。
ブービーは、英語「booby」からの外来語です。
「booby」は、「まぬけ」や「馬鹿」を意味するスペイン語「bobo」に接尾語「-y」が付いた語です。英語の「booby」は「最下位」を意味し、「ブービー賞(booby prize)」は最下位の人に与えられる賞です。
ブービー賞には、ジョーク交じりの粗末な物が賞品として渡されますが、日本では最下位の人にも豪華な賞品が用意されることが多いようです。
そのため、故意に最下位を狙う人が出ることから、狙いにくい最下位から2番目の人にブービー賞が与えられるようになりました。
それにより、「最下位」を指す言葉が無くなったため、新たに「最下位」を表す言葉として「ブービーメーカー」という和製英語がつくられました。
2.仏法僧(ぶっぽうそう)
「ブッポウソウ」とは、「全長約30センチのブッポウソウ目ブッポウソウ科の鳥」です。体は青緑色で頭が黒く、くちばしと脚が赤い鳥で、日本には夏鳥として渡来し、冬に南方へ渡ります。
ブッポウソウは、鳴き声が「仏法僧」と聞こえるところから名付けられました。
仏法僧とは仏教の三宝のことで、「仏」「仏の説いた法」「その教えを奉じ広める僧」をいい、ブッポウソウはありがたい鳴き声の鳥ということで、古くから霊鳥として扱われてきました。
しかし、実際には「ゲッゲッゲッ」としか鳴きません。昭和10年(1935年)、「ブッポウソウ」と鳴いているのは、フクロウの一種である「コノハズク」とわかりました。
それ以降、学名上は「ブッポウソウ」のままですが、俗に、この鳥を「姿のブッポウソウ」、コノハズクを「声のブッポウソウ」と呼んで区別されるようになりました。
「仏法僧」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・杉の月 仏法僧と 三声づゝ(杉田久女)
・月一痕 仏法僧の 遠谺(渡邊千枝子)
・仏法僧 二声に熄(や)む 霧の奥(山本悠水)
・学僧を 破戒に誘ふ 仏法僧(高橋弘道)
3.船/舟(ふね)
「船(舟)」とは、「人や荷物を乗せて水上を航行する乗り物」です。
ふねは、水槽や大きな容器を表す古語「ふね(槽)」からとする説が有力とされています。
浴槽の「湯船」や魚介類などを盛る容器をいう「舟」も、古語の「ふね(槽)」から派生したものです。
ただし、容器を意味する「ふね(槽)」の語源については不明で、乗り物の「ふね(舟)」から容器を表すようになったとも考えられており、前後関係は分かっていません。
その他、「ふね」の語源には、「ね」が接尾語で、「ふ」は水に浮かぶことから「浮」とする説や、帆を張ることから「帆」とする説があります。
漢字の「舟」は、中国の小舟を描いた象形文字です。「船」は「沿」と同系で、流れに沿って下るふねを表します。
一般に、動力を用いる大型のものを「船」、手で漕ぐ小型のものを「舟」と表記します。
4.文(ふみ)
「ふみ」とは、「文字で書いたもの。文書。手紙。書状。書物。学問。特に漢学」のことです。
ふみの語源は、「文」の字音「フン」の転が定説です。
いにしえを顧みる意味から、鳥の踏みつけた跡で字を作ったことから、新羅の文書の詞が無礼であったため足で踏んだことからなど、「踏」を語源とする説も多く見られます。
字音「フン」の転と考えるのが妥当ですが、歴史を刻むことを「踏み」とし、音転する過程で影響したとも考えられます。
漢字の「文」は、土器につけた縄文模様のひとこまを描いた象形文字です。
「書」は、「聿(ふで)」と音符「者」からなる形声文字で、筆で字を書き付け、紙や木簡に定着させることを表します。
5.梟(ふくろう)
「フクロウ」とは、「フクロウ目フクロウ科の鳥の総称。また、フクロウ科の鳥のうち、耳のような羽角をもつミミズクを除いたものの総称」です。ふくろ。
フクロウの名は、奈良時代の『常陸国風土記』から見られます。
フクロウは陰気な鳴き声が印象的な鳥で、フクロウをいう方言には、鳴き声に由来すると思われる「ゴロチョ」「フルツク」「ホーホードリ」「ホロスケ」などがあることから、その鳴き声が語源と考えられます。
漢字の「梟」は、「木」の上に「鳥」の略体です。
これは、昔、フクロウの死骸を木の上にさらして、小鳥を脅していたことに由来します。
「梟」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・梟よ 松なき市の 夕あらし(宝井其角)
・梟の むくむく氷る 支度かな(小林一茶)
・梟を なぶるや寺の 昼狐(正岡子規)
・梟淋し 人の如くに 瞑る時(原石鼎)
6.腑抜け(ふぬけ)
「腑抜け」とは、「意気地がないこと。腰抜け」です。
腑抜けの「腑」は、「はらわた」「臓腑」を意味する語です。
「肝」に「気力」や「度胸」の意味があるように、「腑(腹)」は底力を出す際に力を入れる場所と考えられています。
力を入れるべき場所が抜け落ちた状態から、腑抜けは「意気地がないこと」や「腰抜け」を表すようになりました。
また、「腑」は「心」や「考え」も意味することから、「腑抜け」「腑が抜ける」は思慮分別が抜け落ちてなくなることも言うようになりました。
7.山毛欅(ぶな)
「ブナ」とは、「温帯の山地に分布するブナ科の落葉高木」です。実はどんぐりと呼ばれます。材は建築・家具・パルプなどにします。
ブナの語源は諸説ありますが、ブナは用途は広いですが腐りやすく、歩合がよくないことから「分の無い木」の意味。
風が吹くと葉が「ブーン」と音をたてることから、「ブン鳴りの木」の意味などが代表的な説です。
このうち葉音の説は「ブーン」と聞こえることがないため考え難く、「分の無い木」の説は意味も通じるため有力と考えられます。
漢字の「山毛欅」は、中国ブナの一種を指すもので、本来はこの種の木ではありません。
「橅」の漢字は、木偏に無いで、語源の「分の無い木」と同様の意味から日本で作られた和製漢字です。
8.陰嚢(ふぐり)
「ふぐり」とは、「睾丸。きんたま。いんのう」のことです。
ふぐりの漢字「陰嚢」は当て字で、本来の読み「いんのう」です。
ふぐりの語源には、「フクラグ(脹)」の意味、「フクレククリ(脹括)」の意味などありますが、「フクロ(袋・嚢)」の意味と思われます。
形や色が「栗」に似ていることから、「フクログリ(袋栗・嚢栗)」とする説が妥当と考えられます。