日本語の面白い語源・由来(へ-④)臍繰り・埴猪口・弁当・ヘベレケ・ペテン師・下手・変梃・へたれ

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へそくり

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.臍繰り(へそくり)

へそくり

へそくり」とは、「倹約や内職をして内緒で貯めたお金」です。

へそくりは「臍繰り金(へそくりがね)」の略ですが、へそくりの「へそ」と、人間の「へそ(臍)」は全く関係ないものです。

苧環

漢字の「臍」は混同からの当て字で、本来は「綜麻繰り金」と書きます。
綜麻(へそ)とは、紡いだ麻糸を環状に幾重にも巻きつけた糸巻きのことで、「苧環(おだまき)」ともいいます。

その綜麻を繰って貯めたお金を「綜麻繰り金」と言い、「へそ」が人間の臍(へそ)と誤解され、「臍繰り金」と書かれるようになったのです。

さらに、臍は「ほぞ」とも言うことから、へそくり(金)は「ほぞくり金」や「ほぞくり」「ほぞ金」などとも呼ばれました。

2.埴猪口(へなちょこ)

へなちょこ

へなちょこ」とは、「未熟な者、取るに足らない者をあざけっていう語」です。

へなちょこの「へな」は、腰砕けの状態を表す「へなへな」の「へな」で、「ちょこ」は「ちょこまか」など目立たない小さな動作を表す「ちょこ」と考えられます。

漢字で「埴猪口」と表記されることもあり、「埴(へな)」は「粘土」、「猪口」は酒を飲むのに使う小さな杯の「お猪口」のことですが、「埴」も「猪口」も当て字です。

へなちょこの語源には、明治の新聞記者 野崎左文が、神田明神境内の料亭『開花楼』で酒宴をした際、使ったお猪口が埴で作られた粗末なものだったため、「へなちょこ」と呼んだとする説が多く、野崎左文の『昔の銀座と新橋芸者』には、明らかな経緯も書かれているといわれます。

同じ野崎左文の説では、「変な猪口」から「へなちょこ」になったとする説もあります。
しかし、経緯が明らかと言う割に、「へな」の語源が異なっているため信憑性は薄いものです。

また、曲がったりしなったりするさまの「へなへな」という語は、「埴」とは無関係に江戸時代から使われており、小生意気な者を意味する「猪口才」の語もあることから、この語だけが特別に作られたとは考え難く、当て字に合わせて考えられた説と思われます。

3.弁当(べんとう)

弁当

弁当」とは、「外出先で食事をするために、容器に入れて持ち歩く食べ物。また、その容器」です。

弁当は、中国南宋時代の俗語で「好都合」「便利なこと」を意味する「便当」が語源です。
「便当」が日本に入り、「便道」「弁道」などの漢字も当てられました。

「弁えて(そなえて)用に当てる」ことから、「弁当」の字が当てられ、弁当箱の意味として使われたと考えられます。

「飯桶(めしおけ)」を意味する「面桶(めんつう)」を漢音読みした「めんとう」から、「べんとう」になったとする説もありますが、歴史的仮名遣いは「べんたう」なので考え難いものです。

容器自体は桃山時代から、弁当という言葉は鎌倉時代から見られます。
それ以前は、器の中をいくつかに割ることから、「破子・破籠(わりご)」が使われていました。

4.ヘベレケ/ヘベれけ

ヘベレケ

へべれけ」とは、「意識や記憶を失うほど酒に酔ったさま」です。

へべれけの語源は、「ヘーベーのお酌」という意味のギリシア語「ヘーベー・エリュエケ(Hebeerryk)」が短縮されたとする説が、定説かのごとくいわれています。

ヘーベーとは、ギリシア神話に出てくる青春を司る女神の名前で、ゼウスとヘーラーの間に生まれ、ヘラクレスと結婚をしています。
へーベーにお酌してもらった神々は、喜んで何杯も飲み干し泥酔してしまったと考え、「へべれけ」になったといわれます。

しかし、ギリシア神話が日本に伝わり、「ヘーベーのお酌」の意味から「へべれけ」に転じた由来は未詳で、この説は正確な語源とされていません。

へべれけに近い擬態語には、「へろへろ」「べろべろ」「べろんべろん」など数多くあるため、それらと同系の語と考えるのが妥当です。

5.ペテン師(ぺてんし)

ペテン師

ペテン師」とは、「人をだますのが巧みな人。詐欺師」のことです。

ペテン師の「ペテン」は、詐欺を意味する中国語「bengzi」が訛った語です。

日本では明治初期から用例が見られ、「ペテン」に「偽造」の漢字を当てた例も見られます。
この語が使われ始めた頃は、「ペテンをする」といった用法でしたが、現在は「ペテンに掛ける」と用いることが多くなっています。

6.下手(へた)

下手

下手」とは、「物事に巧みでないこと。また、そのような人」です。

へたは、「はし」や「へり」などを意味する「端・辺(へた)」に由来します。

この場合の「はし」は、「そのあたり」「岸辺」など近い場所の意味のことです。
近い場所は奥が深くないため、奥深くない意味から転じ、下手の意味になったと考えられます。

漢字で「下手」と書くのは、等級が劣る意味の「下等(げとう)」からとされています。

7.変梃(へんてこ)

へんてこ

へんてこ」とは、「奇妙でおかしいさま。そのような物や人」のことです。へんちき。

漢字の「変梃」は、「梃(てこ)」のみ当て字です。
へんてこは「変(へん)」に接尾語の「てこ」がついたもので、「へんちき」も同様に接尾語「ちき」がついたものです。共に、近世から見られる言葉です。

「てこ」という接尾語は「へんてこ」以外に見かけませんが、「ちき」には「高慢(こうまん)ちき」や「とんちき」などがあります。

「ちき」は「的(てき)」が語源で、からかいやあざけりの気持ちを込めて言う時に、人の状態を表す語につきます。

「ちき」に意味や音が似て、使われ始めた時期も近いことから、へんてこの「てこ」も「的」が語源と考えられます。

8.へたれ

ヘタレ

へたれ」(ヘタレ)とは、「弱った物、臆病な様子や情けない性格をした人物を指す俗語」です。意図した規格に合わない物や製品のことも指します。

特に関西では「あぁ〜」、「えぇ〜」、「もぉ〜」などと、ことあるごとに声(愚痴にもなっていない短い言葉・泣き言)を漏らす人を指して「へたれ」(屁垂れ)と呼びます。口から屁を垂れ流しているようなさまからこう呼ばれるようになりました。

しかし、この「へたれ」という言葉が全国に広まるにつれ、へたった物のようなイメージも付き、すぐに泣き言を漏らす人だけでなく、弱々しい人全般に使われる傾向にあります。

語源は諸説ありますが「元気が無くなる」という意味の単語「へたる」「へたれる」の名詞的用法として「へたれ」と使われ始めたとする説と、関西方面の方言「屁垂れ」が語源とする説があります。

ちなみに「へたる」は、①尻をつけてべったり座る。また、尻餅をつく。②へたばる。へこたれる。元気がなくなる。また、疲労で倒れる。③そのものの機能や性能が衰える。のような意味があります。