日本語の面白い語源・由来(ほ-③)帽子・殆ど・傍若無人・頬白・牡丹・本・埃・臍を嚙む

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麻生太郎・帽子

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.帽子(ぼうし)

美智子皇后・帽子ダイアナ妃・帽子チャップリン・帽子

帽子」とは、「頭に被り、寒暑やほこり・直射日光などから頭部を保護し、また身なりを整えるもの」です。

帽子は漢語で、布で作った被り物の総称です。

漢字「帽」の「冒」は、目におおいを被せることを示し、「布」と音符「冒」で「かぶせ布」「頭をおおい隠す被り物」を表します。

帽子の「子」は、「格子」や「冊子」などど同じく、小さな物に添える接尾語です。

2.殆ど(ほとんど)

殆ど

ほとんど」とは、「大部分。大多数。だいたい。おおよそ。もう少しのところで。切実であるさま」です。

ほとんどは、副詞「ほとほと」が音変化した語です。

平安から鎌倉時代にかけて「ほとほど」や「ほとをと」となり、室町時代中期以降「ほとんど」の形となりました。

「ほとほと」は「辺」や「側」を表す「ほとり」の語根「ほと」を重ねたもので、「もう少しで」というところから、「だいたい」や「危ういところで」の意味を表すようになりました。

現代語では「ほとんど」がこの意味を引き継ぎ、「ほとほと」は意味が変化して「まったく」「つくづく」など困り果てた気持ちを表します。

3.傍若無人(ぼうじゃくぶじん)

傍若無人

傍若無人」とは、「周りの人の目など気にせず、勝手気ままに振る舞うこと。また、そのさま」です。「旁若無人」とも書きます。

傍若無人の出典は、中国の『史記(刺客列伝)』の次の故事です。

秦の時代、刺客の荊軻(けいか)は高漸離(こうぜんり)達と燕(北京)で毎日を飲んでいた。
宴もたけなわになると街の中を歩きながら、高漸離は楽器を鳴らし、荊軻はそれに合わせて歌い、騒ぎわめいた挙句、抱き合って泣き出したりしていた。
まるでその様子が、「傍らに人無きが如し(ごとし)」であったという。

4.頬白(ほおじろ)

ホオジロ

ホオジロ」とは、「全体に褐色で顔は黒く、眉・頬・喉が白いスズメ目ホオジロ科の鳥」です。

漢字で「頬白」と書くように、ホオジロは頬の白さが目立つことからの名といわれます。
しかし、そのような命名であれば頬だけが白いはずですが、ホオジロは眉や喉など白い箇所が他にもあり、頬全体が白いわけでもありません。

そのため、「シロ(ジロ)」は色を表しているのではなく、白い色がまだら状に混じって著しいことから、「イチジロシ(著しい)」の「シロ」といった見解もあります。

「頬白」は春の季語で、次のような俳句があります。

・尾の力 抜いて頬白 囀れり(堀口星眠)

・頬白や 手鏡ほどの 水溜り(杉浦恵子)

・頬白や 家なき原を 郵便夫(相馬遷子)

・頬白の 庭の一劃(いっかく) 手を入れず(稲畑汀子)

5.牡丹(ぼたん)

牡丹

牡丹」とは、「中国原産のボタン科の落葉小低木」です。5月頃、紅・白・・黄色などの大形の花が咲きます。

ボタンは、古く中国から渡来した植物で、漢語「牡丹」の音読みです。
牡丹の「牡」は「オス」の意味で、雄しべや雌しべが花弁に変わり、種子ができていくところから、「牡」と形容されたものです。

「牡」は、呉音では「ム」「モ」、漢音が「ボウ」で、その慣用音が「ボ」です。
そのため、古くは「ボウタン」とも呼ばれました。

牡丹の「丹」は「赤」の意味で、ボタンの花の色は黄色や紫・白などさまざまですが、赤い花が基本とされていたことに由来します。

漢語「牡丹」の語源には、ギリシャ語で「植物」を意味する「Botane」の音訳といった説もありますが、音が近いことから考えられただけの説で、根拠となるものは特にありません。

「牡丹」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・牡丹散つて うちかさなりぬ 二三片(与謝蕪村

・低く居て 富貴をたもつ 牡丹かな(炭太祇)

・扇にて 尺を取りたる 牡丹哉(小林一茶

・白牡丹と いふといへども 紅ほのか(高浜虚子

6.本(ほん)

図書館・本

」とは、「書物。書籍」のことです。

ほんは、漢字「本」の字音「ホン」からです。
「本」の字は、木の根の太い部分に印をつけ、その部分を示した漢字で、漢語では「太い木の根」や「草木の根」を指します。

日本では物事の「根本」や「基本」といった意味から、「手本」や「模範とすべきもの」の意味を表すようになりました。

そこから、書写の元となるような書物を「本」と呼ぶようになり、書物全般を言うようになりました。

7.埃(ほこり)

埃

」とは、「空中に飛び散ったり、物にたまっている粉のような細かいごみ」です。

ほこりには、「ホオコリ(火起)」「ホケリ(火気)」「ホコゴリ(火凝)」「ホコリ(火残)」の意味とする説があります。

「ほ」を「火」と関連付けるのは「灰」を想定したものと考えられますが、元々「灰」を指していたものかは疑問です。

この他、「立ち放こる」の意味とする説や、語根が似る「ほころぶ(綻ぶ)」と関連付けた説もあります。

8.臍を嚙む(ほぞをかむ)

臍を噛む」とは、「後悔する。すでに取り返しのつかないことを悔やむこと」です。「臍を噬む」とも書きます。

「臍を噛む」の「臍(ほぞ)」は「へそ」のことです。

自分で自分のへそを噛もうとしても届かないように、取り返しのつかないことは悔やむことしかできないことから、後悔する意味のたとえとして「臍を噛む」と言うようになりました。

『春秋左氏伝』の「郤国を亡ぼす者は、必ず此の人なり。若し早く図らずんば後に君臍を噬まん」に由来する言葉です。

「ほぞを噛む」と言うことが多いため、「へそを噛む」は誤りとされますが、古い文献には「へそを噛む」といった例も見られます。