日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ポタージュ/potage
「ポタージュ」とは、「スープ。特に、とろみのある濃いスープ」のことです。
ポタージュは、フランス語「Potage」からの外来語です。
ポタージュの「ポ(po)」は、古い印欧祖語で「飲むこと」を意味します。
そこから、ラテン語で「飲む」を意味する「poto」、「飲み物」や「飲み物の容器」を意味する「potus」が生まれ、口語ラテン語「pottus」がフランス語に入って、「壺」や「深鍋」を意味する「pot」となりました。
13~14世紀頃、「pot」に「集まったもの」「中身」など集合物を表す「-age」が付き、「potage(ポタージュ)」の語が生まれました。
つまり、ポタージュは「深鍋の中身」が語源です。
元々、ポタージュは深鍋に肉や野菜を入れて煮込んだスープ全般を指しましたが、濃いスープを「ポタージュ」と呼ぶようになり、薄いスープの「コンソメ」と区別して用いられるようになりました。
フランスではとろみのある濃いスープを「potage lies(ポタージュ・リエ)」、澄んだ薄いスープを「potage clairs(ポタージュ・クレール)」と呼びます。
2.ポロシャツ/polo shirt
「ポロシャツ」とは、「襟つき・半袖の頭から被って着るスポーツシャツ」です。
ポロシャツの名は、ポロ競技(馬に乗りT字形のスティックで木製のボールを相手ゴールに入れる競技)で着られたことに由来します。
ただし、このシャツは元々フランスでテニス用シャツとして考案されたもので、海外では「テニスシャツ」とも呼ばれます。
このシャツをイギリスのポロ競技者が早くに取り入れたことから、「ポロシャツ」の名で広まったのであり、ポロ競技で着用していたシャツをテニスプレイヤーが真似したわけではありません。
一般にポロシャツが普及するきっかけとなったのは、花形テニスプレイヤーだったルネ・ラコステが着ていたためとも、引退後にラコステがデザインを手がけたためとも言われます。
普及したと言われる時期は、ラコステが現役の頃から引退後の創業期に当たるため正確なことは分かりませんが、影響を与えたことは確かであり、現在のポロシャツのデザインの原型を作ったのも、ラコステと言って間違いないでしょう。
3.朴念仁(ぼくねんじん)
「朴念仁」とは、「無口で愛想の無い人。頑固でものわかりの悪い人。わからずや」のことです。
朴念仁は、和製漢語のようです。「朴」は「素朴」「朴訥」など飾り気がないさま。
「念」は思うことや考えること。「仁」は人を表しています。
本来、朴念仁は飾り気が無く素朴な考えの人を表す言葉でしたが、飾り気の無さから転じて、無愛想な人やわからずやを指す言葉になったのではないかと思われます。
4.海鞘/老海鼠(ほや)
「ホヤ」とは、「ホヤ目に属する原索動物の総称」です。単体または群体をなします。単体のものは球形または卵形で、硬い被嚢(ひのう)で覆われます。岩や海草に付着し、植物のようにも見えます。幼生はおたまじゃくしに似て水中を浮游します。
ホヤの名は、ヤドリギの古名「ほや(寄生)」に由来します。
岩に付着し動かないため、その姿がヤドリギの根を張る姿に似ていることから、「ほや(寄生)」を流用したものです。
ランプシェード(ランプのかさ)に当たる「ほや(火屋)」に似ることからとする説もありますが、ランプは開国後に渡来したものであるのに対し、ホヤは平安時代には既に食用とされ、開国以前から「ホヤ」と呼ばれていています。
火屋は香炉の蓋も意味しますが、その火屋とすれば形状は似なくなるため、いずれにしても考え難い説です。
ホヤを食べると強壮効果があることから、「夜に保つ」の意味で「保夜」と書き、「ホヤ」と呼ばれるようになったとする説もありますが、「保夜」は「ホヤ」の呼称が成立した後の当て字なので間違いです。
その他の説では、炎のように赤いことから「ほや(火焼)」、被嚢が張っていることから「ふくは(脹和)」の意味とする説もありますが、いずれも考え難いものです。
ホヤは漢字で「海鞘」と書くほか、ナマコにも似ていることから「老海鼠」の字が当てられます。
その形状から「海のパイナップル」とも呼ばれます。
「ホヤ貝」と呼ばれることもありますが、貝の仲間ではありません。
「海鞘」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・昼闌(た)けし 海鞘波の中 るるるるる(岡井省二)
・海鞘食ひて 一座の女性 みな笑顔(松崎鉄之介)
・みちのくの 回転鮨に 海鞘ありぬ(望月ひろゆき)
・エプロンを 染めて飛び散る 海鞘の腸(渡辺美知子)
5.ホッチキス/Hotchkiss
「ホッチキス」とは、「コの字形の針を打ち込んで、紙などを綴じ合わせる道具」です。「ホチキス」とも言います。
ホッチキスは英語で「Stapler(ステープラー)」と言い、JIS規格でも「ステープラ」と呼びます。
これが「ホッチキス」と呼ばれるようになったのは、伊藤喜商店(現イトーキ)が日本で初めてホッチキスを販売した明治36年(1903年)に遡ります。
販売された製品はアメリカのE・H・ホッチキス社製のステプラーで、製品には大きく「HOTCHKISS No.1」とブランドと形式が刻印されていました。
当時の日本に無かった製品で、呼称も決まっていなかったため、この「HOTCHKISS」から「ホッチキス」と呼ばれるようになりました。
かつては、綴じ針が連続して打ち出される構造が、機関銃の構造と全く同じことからの連想で、「ホッチキス」は機関銃の発明者ベンジャミン・B・ホッチキスの名にちなむと考えられていました。
しかし、E・H・ホッチキス社の社名は、創業者のジョージ(George Hotchkiss)とイーライ・ハベル(Eli Hubbell Hotchkiss)の親子の名前から取られたもので、ベンジャミン・ホッチキスとは関係ないことが分かりました。
6.ホットドッグ/hot dog
「ホットドッグ」とは、「細長いパンに切れ目を入れ、熱いソーセージやキャベツ・玉ねぎなどの野菜を挟んだ食べ物」です。
ホットドッグは、アメリカ英語「hot dog」からです。
呼称の由来は、犬の肉を使っているという噂からとも言われますが、「ホットドッグ」という名から生まれた噂なので語源とは関係ありません。
この食べ物が「ホットドッグ」と呼ばれる以前、ダックスフントに形が似ていることから、野球場では「レッド・ホット・ダックスフンド・ソーセージ」という名で売られていました。
ニューヨークジャーナル誌のスポーツ漫画家であったT・A・ドーガンが、これを見てひらめき、ソーセージの代わりにダックスフントそのものがマスタードを塗られ、パンに挟まっている漫画を描きました。
その漫画のタイトルを「ホットドッグはいかが!」としたことから、この食べ物も「ホットドッグ」と呼ばれるようになりました。
ドーガンがタイトルに「Hot dog」を使った理由として、「Dachshund(ダックスフント)」のスペルが思い出せなかったから。また、「Dachshund」と書くのが面倒だったからといわれます。
7.盆の窪(ぼんのくぼ)
「盆の窪」とは、「うなじの中央のくぼんだ所」です。頸窩(けいか)。
盆の窪の語源は、以下のとおり諸説あります。
①盆の窪の「盆」は当て字で、本来は「坊(ぼん)の窪み」。つまり「坊主頭」からとする説。
坊主頭にした際、窪んでいることがよくわかる部分です。
②盆の窪の「盆」が頭部を表し、頭の窪みの意味とする説。
「はちまき」の「はち」が頭のまわりを意味するため、「盆」を丸いものとした説ですが、「盆」は「丸いもの」ではなく「平たいもの」を指す言葉なので考え難いものです。
また、盆の窪の「盆」が平たい部分を表していたとしても、通常「窪み」は平らなところに対してできるもので、あえて「平ら」とするのは不自然です。
③盆の窪の「盆」は当て字で、「ほねのくぼ(骨窪)」が訛ったとする説。
意味的には分からなくもありませんが、「ほね」が音変化したという部分は無理があります。
④「くぼみのくぼ(頚窪)」の意味とする説。
「頚(首)」が「くぼみ」や「くびれ」が語源と考えられていることを表しただけで、盆の窪の「盆」について触れていないため、ぼんのくぼの語源としては成立していません。
江戸時代、小児のうなじ中央部分だけを残して剃った髪型も「ぼんのくぼ」と言いました。
しかし、既に「ぼんのくぼ」の語が成立した後に生まれた表現なので、この髪型が語源にはなりません。