日本語の面白い語源・由来(ま-⑤)鮪・蝮・鱒・マニキュア・マフラー・松ぼっくり・木天蓼

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マグロ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鮪(まぐろ)

鮪

マグロ」とは、「スズキ目サバ科マグロ属の魚の総称」です。日本の近海には、クロマグロ・メバチ・キハダ・ビンナガ・コシナガ、遠洋で漁獲されるものには、ミナミマグロ・タイセイヨウマグロがいます。

マグロの語源には、目が黒いことから「眼黒(まぐろ)」の意味とする説と、背が黒く海を泳ぐ姿が真っ黒な小山に見えることから「真黒(まぐろ)」の意味とする説があります。

マグロはどれも目が黒いため、眼黒の説が妥当と考えられますが、マグロの代表がクロマグロであるため、真黒の説も捨てがたいものです。

マグロの漢字「鮪」の「有」は、「外側を囲むという」意味で、「鮪」には大きく外枠を描くように回遊する魚の意味があります。

「鮪」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・船上に 歓声を聞く 大鮪(森景ともね)

・鮪食ふや 隣家の子等の 鬼やらひ(皆吉司)

・髭の濃き 男降り来る 鮪船(栗山よし子)

・鮪累々 無念の背鰭 高く上げ(坂本京子)

2.蝮(まむし)

蝮

マムシ」とは、「灰褐色の地に大きな銭形の斑紋があるクサリヘビ科の毒蛇の総称」です。カエル・ネズミなどを捕食します。はみ。くちばみ。

マムシは、「虫」に「本当」「真性」を意味する「真」がついた「真虫」が語源と思われます。

ヘビは「長虫」とも呼ばれ、虫の一種とされていました。その中でもマムシは毒を持っていて恐ろしい虫であるから、虫の中の虫という意味で「真虫」と名付けられたと考えられます。

また、マムシを古くは「はみ」と言ったことから、「はみむし」の略転で「まむし」になったとする説も有力です。

漢字の「蝮」は、「膨れた腹の虫」を表しています。

「蝮」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・曇天や 蝮生き居る 罎の中(芥川龍之介)

・平凡の 長寿願はず 蝮酒(杉田久女

・蝮捕りの 話の仔細 身の毛立つ(遠藤白雲子)

・蝮捕り 夜は酔深し 峰の月(高橋好温)

3.鱒(ます)

鱒

マス」とは、「サケ目サケ科でマスの名がつく魚の俗称」です。特に、サクラマス・カラフトマスをいい、釣りではベニマスとその陸封型のヒメマスやニジマスなどの略称としても用いられます。サケ類以外のサケ科を総じて指すこともあります。

マスの語源には、朝鮮方言の「松魚」から「マスノイオ」と言ったとする説。
味が勝っていることから、「勝る」に由来する説
大きいことから「増す」、繁殖力が旺盛なことから「増す」など諸説あります。

定説となっているものはありませんが、色の赤さや味、大きさや繁殖力などが「増す」に通じるため、「マスノイオ」に「増す」が加味され、「マス」で定着したと考えられます。

マスの漢字「鱒」の「尊」は、「細長い酒壺の形をした」「格好が良い」を表した音符です。

「鱒」は春の季語で、次のような俳句があります。

・鱒閑に 空しき岸を 泳ぎけり(松瀬青々)

・鱒青み 旅の乙女の 髪短か(原裕)

・春星や 鱒飼ひ渓の 一軒家(福田蓼汀)

・鱒池に 散り込んでをる 遅桜(本居英)

4.マニキュア/manicure

マニキュア

マニキュア」とは、「手の爪の形を整えて磨き、エナメル液を塗って色をつけたり光沢を出したりする爪の化粧」です。また、それに用いるエナメル液。足の爪に塗る場合は「ペディキュア」。

マニキュアの「マニ」は、「手」を意味するラテン語「manus(マヌス)」、「キュア(cure)」は「手入れ」の意味で、「手の手入れ」がマニキュアの原義です。

「cure」は「心遣い」や「心配」を意味するラテン語「cura(care)」から、「治す」「治療する」の意味に変化した語で、「心配」「気にかける」を意味する「care(ケア)」と同源です。

日本では主に爪に塗るエナメル液を「マニキュア」と呼びますが、英語圏では広義になるため、「ネイルカラー」「ネイルエナメル」「ネイルポリッシュ」「ネイルラッカー」などと言います。

現在使われているネイルエナメルは1920年代から普及したものですが、マニキュアの歴史は古く、古代エジプトでも行われ、中世ヨーロッパでは「ハンマム」という美容院で爪の手入れが行われたといわれます。

江戸時代の日本では、ホウセンカの花とカタバミの葉を揉み合わせた紅を爪に塗っていました。

5.マフラー/muffler

マフラー

マフラー」とは、「防寒具のひとつ。毛糸や布などの細長い襟巻き。自動車やバイクなどの排気音を制御する装置。消音器。サイレンサー」のことです。

マフラーには防寒具と消音器がありますが、共に英語「muffler」からの外来語で、「包む」「覆う」を意味する「muffle」に由来します。

暖めるために包むことから防寒具の「マフラー」、音を消したり抑えるために包むことから消音器の「マフラー」に繋がります。

「muffle」は「手袋」を意味する古フランス語「moufle」、古ラテン語の「muffula」からで、円筒状で毛皮製の婦人用手の防寒具の「マフ(muff)」も同源です。

6.松ぼっくり/松毬(まつぼっくり)

松ぼっくり

松ぼっくり」とは、「松笠。松の木の実」のことです。

松ぼっくりは、「松ふぐり」が転じた語です。
「ふぐり」は「精巣」「睾丸」のことで、形が睾丸に似ていることから、こう呼ばれます。

松ぼっくりの漢字は、一般的に「松毬」と書きますが、「ふぐり」の当て字に使われる「陰嚢」を用い、「松陰嚢」とも表記されます。

「陰嚢」を「いんのう」と読む場合は「睾丸」を指しますが、「ふぐり」と読む場合は「松ぼっくり」を指していることもあります。

「松ぼっくり」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・水の秋 松ぼつくりの 浮いてをる(延広禎一)

・堀端に 落ちて見事な 松ぼくり(末益冬青)

・てのひらの 松ぼつくりに 夕焼入れ(本山卓日子)

・松ぼくり わが前に落ち 秋終る(定梶じょう)

7.木天蓼(またたび)

マタタビ

マタタビ」とは、「山地に自生するマタタビ科の蔓性落葉低木」です。・茎・根は猫の好物で、食べると一種の酩酊状態になります。花は夏。果実は秋。

マタタビの語源には、旅の途中で倒れた人がこの実を食べたら元気になり、又旅(またたび)ができるようになったからという説がありますが、強壮作用を誇張し洒落たもので、全くのでたらめです。

平安時代の本草書『本草和名』に「ワタタビ」とあるように、マタタビを古くは「ワタタビ」と言いました。

「ワタタビ」の語源としては、「ワ」が「本物でないもの」、「タタ」が「タデ(蓼)」、「ビ」が「ミ(実)」の訛りとする説や、「ワル」は「ワサビ」の「ワ」と同じ意味、「タダレ」は「タデ(蓼)」、「ビ」が「ミ(実)」で「ワルタダレミ(悪爛実)」の転とする説があります。

「ワタタビ」を語源としない説には、アイヌ語の「マタタンプ(「マタ」は「冬」、「タンプ」は「亀の甲」の意味)」が転じたとする説があります。

秋田の方言ではマタタビを「またんぶ」と言うことから、「ワタタビ」も「マタタンプ」が変化を繰り返した後にできた語とも考えられます。

その他、長い実と平たい実と二つなることから、「マタツミ」の意味を語源とする説もありますが、使用例がないことから説得力に欠けます。

漢字の「木天蓼」は「もくてんりょう」と言い、漢方で中風やリウマチの薬に用いるマタタビの果実を乾燥したものを指す語です。

「木天蓼」は秋の季語です。