エモい古語 自然(その1)生き物 炬燵猫・兎馬・獺祭・鬣犬・ふくら雀・翡翠・胡蝶・亀鳴く

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こたつ猫

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.哺乳類

・炬燵猫(こたつねこ):こたつで丸くなるネコ。冬の季語。

・うかれ猫:恋に夢中になって鳴きながら浮かれ歩くネコ。春の季語。

・恋猫(こいねこ):恋に夢中なネコ。「猫の恋」。春の季語。

・かじけ猫(かじけねこ):寒さでちぢこまり、じっとしているネコ。冬の季語。

・竈猫(かまどねこ):寒さのあまり火の消えたかまどにもぐって、灰だらけになるネコ。または、かまどのそばで暖を取るネコ。

・金沢猫(かなざわねこ):鎌倉時代、仏典などの貴重な書物をネズミから守るために中国からの船に乗せられ、日本最古の武家文庫である「金沢文庫」にやってきたネコ。三毛猫(みけねこ)だったと伝えられます。

・露結耳(つゆむすびみみ):ウサギの子の異名。ウサギの親は子育てをせず、子どもは草葉の露をなめて育つと考えられていたことから。「露なめ」「露ねぶり」とも言います。

・兎波を走る(うさぎなみをはしる):波のある水面に月の光が映っているさまのたとえ。波が白く輝いてウサギが走っているように見えることから。

・兎馬(うさぎうま):ロバの古名。馬より小形で耳が長いことから。

ロバ

・於菟(おと):トラ、またはネコの異名。

・獺祭(だっさい/おそまつり):カワウソが獲った魚類をすぐに食べずに川岸に並べる習性がお供えしているように見えることから、文を書いたりするときなどにたくさんの資料を広げるさまを指します。「獺(かわうそ)魚を祭る」の短縮形。春の季語。

カワウソ

ちなみに、本を散らかしがちだった俳人の正岡子規の別号は「獺祭書屋主人(だっさいしょおくしゅじん)」で、忌日は「獺祭忌(だっさいき)」と言います。(「糸瓜忌(へちまき)」とも)

・鬣犬(たてがみいぬ):ハイエナの古名。

ハイエナ

・春駒(はるごま/はるこま):春、野に放たれて遊ぶウマ。春の季語。

・迷わし鳥(まよわしどり):キツネの異名。人を化かして迷わせるとされていたことから。

・鎧鼠(よろいねずみ):アルマジロの異名。

アルマジロ

2.鳥

・在巣(ありす):鳥や虫がいる巣。

・悄気鳥(しょげどり):しょんぼりした様子を鳥にたとえた言葉。

・禍鳥(まがどり):不吉な鳥。

・初音(はつね):(ウグイス、ホトトギスなどが)その季節に初めて鳴く声。春の季語。

・彩羽(あやは):美しい色彩の羽。

・百千鳥(ももちどり):さまざまな鳥。「百鳥(ももとり)」。春の季語。

・揚げ雲雀(あげひばり):空高く舞い上がるヒバリ。春の季語。

ヒバリ

・色鳥(いろどり):秋に渡ってくる色とりどりの美しい小鳥。アトリ(花鶏)やジョウビタキ(尉鶲)、マヒワ(真鶸)(下の写真。左から)など。秋の季語。

アトリジョウビタキマヒワ

・浮寝鳥(うきねどり):冬、翼の間に首を入れて丸くなり、水面に浮いたまま寝ている水鳥のこと。冬の季語。

・尾ろの鏡(おろのかがみ):光沢のあるオスのヤマドリ(山鳥)の尾に恋しいメスの姿が映ると信じられていたことから、遠く離れている人への思慕のたとえに用いられる言葉。

ヤマドリ

・遠山鳥(とおやまどり):ヤマドリ(山鳥)の別名。雌雄が山を隔てて寝ることから、男女が別々に夜を過ごすことのたとえに用いられます。

・焦烏(こがれがらす):しゃがれた声で鳴くカラス。鳴き声を恋い焦がれる声に見立てた言葉。

・乱烏(らんあ):乱れて飛び交うカラス。

・月夜烏(つきよがらす):月夜に浮かれて鳴くカラス。夜遊びする人のたとえ。

・大軽率鳥/大虚鳥(おおおそどり):「万葉集」に登場する、カラスへの罵り言葉。「おそ」は軽はずみという意味で、すごくそそっかしい鳥のこと。

・佳賓(かひん):よい客。またはスズメの異名(人家に来ることから)。

・ふくら雀(ふくらすずめ):寒さを防ぐためにスズメが羽毛をふくらませて丸くふくれている様子。冬の季語。

ふくら雀

・雀蛤となる(すずめはまぐりとなる):寒くなるとスズメがいなくなるのは、海でハマグリになっているためと考えられていた古代中国の俗信から。ものごとが変化することのたとえ。秋の季語。

・歌詠み鳥(うたよみどり):ウグイスの異名。「古今和歌集」の仮名序「花に鳴く鶯、水にすむ蛙(かわづ)の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」から。春の季語。

ウグイス

・春告鳥(はるつげどり):ウグイスの別名。春の季語。

・金衣公子(きんいこうし):ウグイスの異名。唐の玄宗が黄色のウグイスをこのように呼んだ故事から。「公子」は貴族の子という意味。「金衣鳥(きんいちょう)」。

・鶯の卵の中の時鳥(うぐいすのかいごのなかのほととぎす):ホトトギスはウグイスの巣に卵を産み入れ育てさせる「托卵」という習性があることから、仲間にまぎれこんだよそ者のたとえ。かいごの「かい」は卵の殻のことで、鳥の卵を指す古語。

ホトトギス

・古恋鳥(いにしえこうるとり):ホトトギスの古名。蜀の望帝が退位後に復位を望んだが、死んでホトトギスとなり、「不如帰(帰るに如かず。=帰るのが一番だ)」と鳴いた故事から、昔を懐かしむ鳥とされました。

冥界と行き来すると思われていたことから「冥途の鳥(めいどのとり)」、夜によく鳴くことから「黄昏鳥(たそがれどり)」、日本の民話で前世にくつを作っていたとされることから「沓手鳥(くつてどり)」、恋人を慕って鳴くと考えられていたことから「妹背鳥(いもせどり)」などとも呼ばれました。

そのほか、「卯月鳥(うづきどり)」「童子鳥(うないこどり)」など、数多くの異名を持ちます。

・恋教え鳥(こいおしえどり):セキレイの異名。イザナギ(伊邪那岐)とイザナミ(伊邪那美)の二神がセキレイを見て夫婦の交わり方を知ったという神話によります。「恋知り鳥(こいしりどり)」とも言います。

セキレイ

・琴弾き鳥(ことひきどり):スズメ目アトリ科の鳥「ウソ(鷽)」の異名。両脚を上げ下げしながら鳴く様子が琴を弾いているように見えることから。春の季語。

ウソ

・小夜啼き鳥(さよなきどり):スズメ目ヒタキ科に属する小鳥「ナイチンゲール」の和名。

ナイチンゲール

・雪客(せっかく):白いサギ(鷺)のこと。中国・宋時代の宰相、李昉(りほう)が五種の鳥を飼い、ツルを「仙客(せんかく)」、クジャクを「南客(なんかく)」、オウムを「隴客(ろうかく)」、ハッカンを「閑客(かんかく)」、白いサギを「雪客」と名付けたという故事から。

白鷺

・雪衣娘(せついじょう):白いオウムの異名。

白いオウム

・友無し千鳥(ともなしちどり):群を離れた一羽だけのチドリ。または一人ぼっちのたとえ。

チドリ

・夕波千鳥(ゆうなみちどり):夕方に打ち寄せる波の上を群れて飛ぶチドリのこと。柿本人麻呂の造語。

「万葉集」にある柿本人麻呂の次の歌が由来です。

「近江の海(み) 夕波千鳥 汝(な)が鳴けば 心もしのに 古(いにしへ)思ほゆ」(意味:近江の海…琵琶湖で、夕暮れ時に波が立っている。その波の間にいる千鳥よ、お前が鳴けば、心もしみじみと、昔のことが思われる)

・母喰鳥(ははくいどり):フクロウの異名。古代中国では親を食い殺す不孝な鳥とされていたことから。日本最古の薬物辞典「本草和名」にも「母喰鳥」と記されています。冬の季語。

フクロウ

・猫頭鳥(びょうとうちょう):ミミズクの異名。

ミミズク

・飛燕(ひえん):飛んでいるツバメ。または剣術などでツバメのようにすばやく身をひるがえすこと。春の季語。

ツバメ

・翡翠(ひすい):「翡」はオスのカワセミ、「翠」はメスのカワセミで、もともとはカワセミを意味する中国語。羽の色が美しいことから、宝石の名前にも使われるようになりました。

鳥や昆虫を含む動物は、一般的にオスのほうが派手な色彩であったり、角があったりしますが、カワセミの場合は、「翡翠」と呼ばれるようにオス(下の写真・左)・メス(下の写真・右)どちらも美しい色をしています。

カワセミ・オスカワセミ・メス

カワセミは体長17cmほどで、カワセミ類の中では一番小さく、スズメより少し大きい程度。大きなクチバシと、美しい青色の背中、オレンジ色のお腹がとても目立ちます。オスとメスを見分けるポイントはクチバシの色です。オスのクチバシは全て黒色ですが、メスはクチバシの下の部分が赤色という特徴があります。

3.虫

・胡蝶(こちょう):チョウの異名。

アオスジアゲハ

胡蝶の夢(こちょうのゆめ):中国の思想家・荘子がチョウになって舞う夢から覚めたあと、はたして自分がチョウになった夢を見たのか、それとも、今の自分はチョウの夢の中なのか、わからなくなったという故事(「荘子」斉物論)から生まれた言葉。

現実と夢との境目があいまいであること、あるいははかない人生のたとえに使われます。

・夢見鳥(ゆめみどり):チョウの異名。「胡蝶の夢」の故事に由来。夢虫(ゆめむし)。

・地獄蝶蝶(じごくちょうちょう):チョウの一種、クロアゲハの異名。

クロアゲハ

・凍蝶(いてちょう):寒さで凍ったように動かずにいる蝶。

・戯蝶(たわれちょう/ぎちょう):たわむれているように飛ぶ、つがいのチョウ

戯蝶

・蛾羽(ひいるは):ガの翅(はね)。「ひいる」はガ(おもにカイコガ)の古名。

ガ

・蜻蛉羽(あきつは):トンボの翅。またはそのように薄く透き通った美しい布のたとえ。

蜻蛉の翅

・金鐘児(きんしょうじ):スズムシの漢名。「月鈴児(げつれいじ)」とも言います。なおマツムシは「金琵琶(きんびわ)」です。

スズムシ

・ちちろ虫(ちちろむし):コオロギ(蟋蟀)の異名。秋の季語。

コオロギ

・夜半立鳥(よはたどり):ホタルの異名。

ホタル

・腐草蛍となる(ふそうほたるとなる):「七十二候」のひとつ。夏の暑さで朽ちた草からホタルが生まれると信じられたことから。ここから「腐草/朽草(くちくさ)」はホタルの異名となりました。夏の季語。

・蜩(かなかな):ヒグラシの異名。秋の季語。

ヒグラシ

・鬼の捨て子(おにのすてご):ミノムシ(蓑虫)の異名。「枕草子」で、親である鬼に秋風が吹くころに迎えに来ると嘘をつかれて捨てられたミノムシが、秋になるたびに「ちちよ、ちちよ」と、はかなげに鳴くと書かれていたことから。秋の季語。

ミノムシ

「蓑虫、いとあはれなり。鬼のうみたりければ」(枕草子)

・鶯の落とし文(うぐいすのおとしぶみ):広葉樹の葉の先にオトシブミ科の小型の甲虫がつくった幼虫の巣。筒状に丸められた葉が巻いた手紙のかたちに似ていることから、ウグイスが落とした恋文だと考えられました。夏の季語。

・雪迎え(ゆきむかえ):晩秋の小春日和に、糸にぶら下がったクモの子が上昇気流に乗って空を舞う現象。この後、雪が降ることが多いところから、山形県米沢盆地などではこう呼ばれます。秋の季語。

晩秋や早春にクモの糸が日を受けてきらめく様子は「糸遊(いとゆう)」と呼ばれます。

4.そのほかの生物

亀鳴く(かめなく):実際にカメが鳴くことはありませんが、春になるとなんとなく鳴きそうだということで、古くから俳句などに使われている不思議な季語。春の季語。

鎌倉時代の和歌「川越(かわごし)の をちの田中の 夕闇に 何ぞと聞けば 亀のなくなり」(藤原為家)が典拠とされます。

目借り時(めかりどき):春の陽気にうとうとすることを、人の目を借りに来たカエルのせいにする季語。春の季語。

・蛇の医者(くちなわのいしゃ):トカゲ(蜥蜴/石竜子)の異名。

・銀蛇(ぎんだ):銀色のヘビ。または波に映る月の光がうねうねと揺れて銀色に輝くさま。ひらめく刀の形容にも使われます。

・穴惑い(あなまどい):(ヘビは彼岸のころに冬眠のために穴に入ると信じられていたことから)晩秋になっても穴に入らず、迷っているように見えるヘビのこと。秋の季語。

・春告魚(はるつげうお):ニシン(鰊)の異名。春の季語。

・ムカデクジラ:貝原益軒の「大和本草(やまとほんぞう)」に登場する謎の海棲動物。クジラのように長く、背中にタテガミが五つあり、尾は二股にわかれ、足は左右六対で計十二足。人が食べると死ぬとあります。

・海月の骨(くらげのほね):ありえないこと、めったにないことのたとえ。クラゲは「水母」とも書きます。

「我が恋は 海の月をぞ 待ちわたる 海月の骨に あふ夜ありやと」(意味:クラゲがいくら待っても骨を持てないように、自分の恋もかなわないだろう)(夫木和歌集)

・星水母(ほしくらげ):梶井基次郎「城のある町にて」に登場する謎の生き物。実在するかは不明。

末遠いパノラマのなかで、花火は星水母(ホシクラゲ)ほどのさやけさに光つては消えた。海は暮れかけてゐたが、その方はまだ明るみが殘つてゐた。

・海兎(うみうさぎ):アメフラシ(雨降/雨虎)の異名。頭部の二本の突起がウサギの耳に見えることから。

アメフラシ

・無腸公子(むちょうこうし):カニの異名。「公子」は貴族の子の意。

・うつせ貝(うつせがい):海岸に打ち寄せられた貝殻。肉のない空っぽの貝。「空貝」「虚貝」とも書きます。

・恋忘れ貝(こいわすれがい):ワスレガイの異名。拾うと恋を忘れられるとされていることから。

ワスレガイ