エモい古語 物語(その3)中国 崑崙・渾沌・獬豸・飛頭蛮・金華猫・姑獲鳥・畢方・鮫人

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崑崙山脈

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.中国の伝説

・崑崙(こんろん):中国西方にあると考えられていた伝説上の聖山。黄河のみなもとで、仙女がすむとされました。「崑崙山」とも言います。

なお「崑崙山脈」は、ヒマラヤ・テンシャン(天山)両山脈の間を西走し、パミール高原に至る実際にある大山脈です。前漢の武帝のとき,張騫 (ちょうけん) がホータン川の上流を踏査して玉の産地を確認し,その地方の山脈を崑崙(クンルン)と名づけたことに由来します。

余談ですが、第三高等学校(旧制高校)の寮歌「逍遥の歌」(紅萌ゆる丘の花)の歌詞にも崑崙が出てきます。

・洞天(どうてん):中国の道教で神仙がすむとされる山中の洞窟。

・藐姑射の山(ばくこやのやま/はこやのやま):神や仙人がすむという中国の伝説上の山。

・渾沌/渾敦(こんとん):「荘子」に登場する、目・鼻・耳・口の七つの穴がない中央の天帝。渾沌の恩に報いようとした南海の天帝と北海の天帝に親切心で七つの穴を空けられて死んでしまいます。「山海経(せんがいきょう)」に登場する帝江と同一とされます。

渾沌

・青龍(せいりゅう):中国の神話で四方を守る霊獣「四神」の東担当。青い龍。「陰陽五行説」では青・東・春・木をつかさどります。

・朱雀(すざく):中国の神話で四方を守る霊獣「四神」の南担当。火に包まれた鳥。「陰陽五行説」では赤・南・春・火をつかさどります。

・白虎(びゃっこ):中国の神話で四方を守る霊獣「四神」の西担当。白いトラ。「陰陽五行説」では白・西・秋・金をつかさどります。

・玄武(げんぶ):中国の神話で四方を守る霊獣「四神」の北担当。ヘビが巻き付いたカメ。「陰陽五行説」では黒・北・冬・水をつかさどります。

・獬豸(かいち):善悪の判断ができる中国の伝説上の一角獣。小さいものはヒツジに似ているとされます。争っている人々がいると、道理のない方を角で触れて教えます。日本の狛犬の起源ともされます。

かいち

・燭陰(しょくいん):中国の伝説上の神獣。人面龍身で皮膚は赤く、体長は千里にも及びます。目ヂカラが強く、目を開けば全世界が真昼になり、目を閉じると闇夜に覆われます。息を吹けば冬になり、吸うと夏になります。

・白澤/白沢(はくたく):妖怪や鬼神に詳しい物知り博士的な神獣。一万千五百二十種の妖異鬼神を黄帝に語り聞かせ、その対処法を教えました。日本ではウシの胴体に目が九つ、角が六つの姿で描かれることが多いようです。

白沢

・雨龍(あまりょう):獏(貘で、トカゲに似た龍。雨を起こすと言われます。

・竜生九子(りゅうせいきゅうし):竜が産んだ九匹の子。親と同じ竜にはならず、それぞれ姿や性格が異なります。さまざまな説がありますが、「懐麓堂集」では、音楽を好む「囚牛(しゅうぎゅう)」、殺すことを好む「睚眦(がいさい)」、遠くを眺めることを好む「嘲風(ちょうふう)」、重きを負うことを好む「覇下(はか)」、悪人を裁くことを好む「狴犴(へいかん)」、文章の読み書きを好む「負屓(ふき)/贔屓(ひき)」などがいます。

・獏/貘(ばく):中国の伝説上の動物。鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、足はトラ、体はクマ似て悪夢を食うとされました。

・火鼠(ひねずみ/かそ):中国の伝説上の動物。南海の火山国の火の中に棲み、その毛は決して燃えないとされ、竹取物語にも、「火鼠の皮衣(かわぎぬ)」として登場します。

・猩猩(しょうじょう):顔が人間で体がイヌという中国の伝説上の動物。サルに似ているとも言われます。酒と履物が大好き。「唐国史補」では、酒壺などが目に入ると罠だと決め込み、大声で「俺をおびき寄せるつもりだろう」と罵りますが、結局は誘惑に負けて飲んでしまい、罠として置かれた履物をはいて倒れたところを人間に捕まえられます。

猩々

・窮奇(きゅうき):翼の生えた虎の姿をして空を飛ぶ古代中国の悪神「四凶」のひとつ。人間の言葉がわかり、人間同士がけんかをしていると正直な方を食べ、誠実な人がいればその鼻を食べ、悪事をなす者には野獣をプレゼントするようなややこしい悪さをします。

「四凶」にはほかに、大きな犬の姿をした「渾敦(こんとん)」、羊身人面で目がわきの下にある「饕餮(とうてつ)」、人面虎足で猪の牙を持つ「檮杌(とうごつ)」がいます。

・瘟鬼(おんき):伝染病を流行させるという中国に伝わる鬼神あるいは妖怪。疫病神。

・刑天(けいてん):中国神話の巨人。神の座をかけて黄帝と争い、首を斬られましたが、乳首を目に、へそを口に変え、武器を振り回し続けました。

刑天

・邪魅(じゃみ):江戸時代の妖怪画集「今昔画図続百鬼」(鳥山石燕)に掲載されている中国の妖怪。魑魅の一種とされます。

邪魅

・飛頭蛮(ひとうばん):中国の妖怪。昼間は普通の人間だが、夜になると頭部だけが胴体から離れて空中を飛び回るとされます。

飛頭蛮

・金華猫(きんかねこ):中国・金華地方の猫は、飼われて三年以上経つと、屋根の上にのぼって月に向かって口を開け、月の精を吸って妖怪になるとされました。美男美女に化け、出会う人を魅了します。「金華の猫」。

・姑獲鳥(こかくちょう):中国の伝説上の怪鳥。夜間飛び回り、毛を着ると鳥に、毛を脱ぐと人間の女になります。人間の子供をさらってきて自分の子供にする習性があります。別名「夜行遊女」「天帝少女」。日本では江戸時代に死んだ妊婦の妖怪・産女と同一視され、「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と読むようになりました。

・蛮蛮(ばんばん):中国古代の地理書「山海経(せんがいきょう)」に登場する片翼、一つ目のカモに似た怪鳥。二羽一緒にならないと飛ぶことができません。「比翼鳥(ひよくのとり)」。

・畢方(ひっぽう):中国古代の地理書「山海経(せんがいきょう)」に登場する一本足、青い胴体に白いクチバシのツルに似た怪鳥。この鳥が自らの名を呼びながら飛来すると妖火が発生するとされました。

・鮫人(こうじん):南海に棲むとされる人間と魚の中間のような存在。いつも機(はた)を織っていて、泣くとその涙が珠玉になるとされます。

・視肉(しにく):中国古代の地理書「山海経(せんがいきょう)」に記載された、四肢や胴体がなく、食べられるために生きている肉の塊。中央に小さな目が二つあります。いくら食べてもすぐに増えて減らないとされます。

・焦螟/蟭螟(しょうめい):「列子」などに登場する想像上の虫。蚊のまつげに巣をつくるとされ、非常に小さいことのたとえに用いられます。夏の季語。

・三尸(さんし):道教において、人間の体内に潜んで四六時中監視し、庚申の日の夜に罪を天帝に告げ口して早死させようとする三匹の虫。庚申の日に寝なければ告げ口されずに済むという考えから、その夜に集まって徹夜で遊ぶ「庚申待(こうしんまち)」という習俗がありました。