エモい古語 言葉(その1)ことわざ 槿花一朝の夢・無何有の郷・一炊の夢・知音

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槿花一朝の夢

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.ことわざ・故事

・槿花一朝の夢(きんかいっちょうのゆめ):ムクゲ(木槿)の花は朝に咲いて夕方にはしぼんでしまうことから、短い栄華をたとえた言葉。唐の詩人。白居易の漢詩「放言五首」のフレーズ「槿花一朝自為栄」(槿花は一日なるもおのずから栄と為す)(意味:ムクゲの花はたった一日の命でも立派に咲いて全うする)から生まれた言葉。「槿花一日の栄(きんかいちじつのえい)

・壺中の天(こちゅうのてん):つぼの中の世界。俗世間とは異なった別天地のこと。「後漢書」(方術伝)の故事によります。「壺中の天地」。

・無何有の郷(むかゆうのきょう/むかうのさと):何もない自然のままの世界で自由を楽しむことを説く荘子の理想の世界。「荘子」(逍遥遊篇)より。

・滄海(蒼海)の一粟(そうかいのいちぞく):大海に浮かぶ一粒の粟(あわ)。広大なものの中にある極めて小さなもののたとえ。

・遏雲の曲(あつうんのきょく):素晴らしい音楽、歌声のこと。流れている雲を止めるほどの素晴らしい響きという意味。

・雲に梯(くもにかけはし):雲にはしごをかけるように、とてもかなえられない高い望みのたとえ。特に恋について言います。

・白虹日を貫く(はっこうひをつらぬく):白い虹が太陽を貫く。中国では兵が君主に危害を加える前兆とされました。

・月に叢雲花に風(つきにむらくもはなにかぜ):よいことは邪魔が入りやすいことのたとえ。花に嵐。

・月夜の蟹(つきよのかに):(月のある夜はカニが月光を恐れてエサをあさらず、身が付きにくいとされていることから)内容がないことのたとえ。「月夜蟹(つきよがに)」。

・月夜の蛍(つきよのほたる):(月のある夜は月光でホタルが見えにくいことから)ぼんやりしていること。

・秋の扇(あきのおうぎ):寵愛を失った女性のたとえ。涼しくなると扇が不要になることから。「秋扇(しゅうせん)」。秋の季語。

・臘月(蝋月)の扇子(ろうげつのせんす):冬の扇子という意味から、無用なもののたとえ。転じて、世間的な価値を超越したもののたとえにも使われます。「臘月」とは旧暦12月のこと。

・一炊の夢(いっすいのゆめ):栄枯盛衰もほんのひとときの夢のようにはかないことのたとえ。唐の小説「枕中記」の故事の一つで、黍(きび)が炊(た)ける間に見た、一生分の長さの昼寝の夢。「邯鄲の夢(かんたんのゆめ)」とも言います。

・池塘春草の夢(ちとうしゅんそうのゆめ):池の堤の若草に横たわってまどろんで見た少年の日の夢。時の移ろいや青春時代がはかないということ。

・南柯の夢(なんかのゆめ):夢のこと。またこの世は夢のようにはかないことのたとえ。中国唐の時代、槐(えんじゅ)の木の下で眠ったある男性が、大槐安国(だいかいあんこく)に行って南柯郡の長官になり二十年間栄華を極める夢を見たが、夢から覚めてみれば大槐安国は木の下のアリの国であったという話から。

・一場の春夢(いちじょうのしゅんむ):春の夜の夢のようにはかないこと。「一場」は、その場かぎりという意味。

・浮生夢の如し(ふせいゆめのごとし):人生は夢のようにはかないものであるということ。李白の漢詩「春夜宴桃李園序(春夜桃李園に宴するの序)」から。

夫(そ)れ天地は万物の逆旅(げきりょ)にして、光陰は百代(ひゃくだい)の過客(かかく)なり。

而(しか)して浮生は夢のごとし、歓を為すこと幾何(いくばく)ぞ。

古人燭(しょく)を秉(と)りて夜遊ぶ、良(まこと)に以(ゆえ)有るなり。

(意味:そもそも世界は万物にとっての一時の宿でしかなくて、時の流れは永遠の旅人のようなもの。人生は夢のようにはかなくて、楽しめる時間はほんの少し。昔の人が火をともして夜遊びしたのもすごくわかる)

・羅浮の夢(らふのゆめ):美女と出会う夢。ウメの名所として名高い羅浮で、寝ている間に美女に姿を変えたウメの精に出会ったという中国の故事から。「羅浮少女」は美人の意。

・巫山の雲雨(ふざんのうんむ):男女が夢の中で結ばれること。中国戦国時代、楚の懐王が昼寝の夢の中で巫山の女神と情を交わした時、別れ際に女神が「朝には雲となり夕方には雨となりここに参ります」と言ったという故事から。「巫山の夢」「朝雲暮雨(ちょううんぼう)」とも言います。

・朝顔の花一時(あさがおのはなひととき):はかないことのたとえ。

・梨花一枝春の雨を帯ぶ(りかいっしはるのあめをおぶ):美しい女性が悩み悲しむ姿を、白いナシの花が春の雨にけぶっている様子にたとえた言葉。

死んで仙界にのぼった楊貴妃が玄宗皇帝を思いしのぶ情をうたった白居易の「長恨歌(ちょうごんか)」より。「梨花の雨」とも言います。

・兎に祭文(うさぎにさいもん):ウサギに神仏への祈りを捧げてもきょとんとされるだけであるように、意味のないことのたとえ。

・兎の角論(うさぎのつのろん):ウサギの角は存在しないことから、根拠のない問題について語る不毛な議論。「亀毛兎角(きもうとかく)」「兎角亀毛」。

・犬が星を守る(いぬがほしをまもる):高望みをすることのたとえ。犬が星を見る。犬に星。

・たくらだ猫の隣り歩き(たくらだねこのとなりありき):「たくらだ猫」とは間抜けなネコのこと。ネコが自分の家のネズミを捕らずに隣近所のネズミを捕ることから。人の用ばかりやって自分の家のことをやらないことのたとえ。または役に立たないことばかりすること。

・あひるの木登り(あひるのきのぼり):アヒルは木に登れないことから、できないことのたとえ。

・海老無き水母(えびなきくらげ):(クラゲは「借眼公(しゃくがんこう)」という異名があり、エビの目を借りて泳ぐという俗説から)頼れるものが無くなって、途方に暮れることのたとえ。

・烏雲の陣(ううんのじん):カラスや雲が自由に散ったり集まったりするように変幻自在な陣法。

・屋烏の愛(おくうのあい):相手の家の屋根にとまったカラスまで好きになってしまうくらい、その人にかかわる全てをいとおしく思うこと。

・天馬空を行く(てんばくうをゆく):着想などが自由奔放で、何ものにもとらわれないこと。

・龍の頷の珠を取る(りゅうのあぎとのたまをとる):龍のあごの下にあるとされる珠をとる。危険を冒すことのたとえ。

・図南の翼(となんのつばさ):鳥が南方に飛び立とうとするように、大きな事業を計画すること。

・文鳥の夢(ぶんちょうのゆめ):斬新な文才の形容。中国・東晋(とうしん)の羅含(らがん)が小さいころ文(あや)模様の美しい鳥が口の中に入る夢を見てから文才がアップしたという「晋書」(文苑伝・羅含伝)の故事より。

・詠雪の才(えいせつのさい):文学的才能のある女性。中国・晋の謝道韞(しゃどううん)という女性が、降る雪を「柳絮(りゅうじょ)」(白い綿毛がある柳の種子)にたとえた詩を詠み、文才をたたえられたという「晋書」の故事より。

・奇貨居くべし(きかおくべし):珍しいものを見つけたら、あとで使えるかもしれないから手元に置いておけということ。またはチャンスを逃さず利用しなさいということ。(出典「史記」)

・深淵に臨んで薄氷を踏むがごとし(しんえんにのぞんではくひょうをふむがごとし):「詩経」(小雅篇)の「戦戦兢兢(せんせんきょうきょう)として深淵に臨むが如く、薄氷を履(ふ)むが如し」を出典とする句。一触即発の危険な状態にあることのたとえ。

・白璧の微瑕(はくへきのびか):白い宝玉についた小さな傷。完璧なものにごくわずかな欠点があることのたとえ。

・空谷の跫音(くうこくのきょうおん):さびしい谷で聞こえる足音。孤独に暮らしているところに思いがけなく人が訪れること。「荘子」(徐無鬼篇)の「空谷に逃るる者は、人の足音の跫然(きょうぜん)たるを聞きて喜ぶ」より。

・知音(ちいん):自分のことをわかってくれる親友。

・巨星墜つ(きょせいおつ):偉大な人物が死ぬこと。

・将星隕つ(しょうせいおつ):(諸葛亮が戦病死したとき、大星が陣中に落ちたという「蜀書」(諸葛亮伝)の故事から)将軍が陣中で死ぬこと。または英雄・偉人が死ぬこと。

2.言葉遊び

・兎の逆立ち(うさぎのさかだち):ウサギが逆立ちすると耳が地面にあたって痛いことから、他人の言葉に弱点を突かれて耳が痛いことのたとえ。

・ 孔雀の卵(くじゃくのたまご):クジャクの卵はなかなか孵化しないことから、なかなか帰らない(=孵らない)ことのダジャレ。

・黒犬のお尻(くろいぬのおいど):「尾も白くない」=「面白くない」のかけ言葉。

・こんにゃくの幽霊(こんにゃくのゆうれい):ぶるぶる震えている、またはぐにゃぐにゃしているさま。

・四角な卵(しかくなたまご):存在しないもの、特に遊女の誠意のたとえ。転じて遊女を指すこともあります。

・占子の兎(しめこのうさぎ):物事が思い通りに進むこと。「しめしめ」の意味。「うまくいった」の意の「しめた」に、兎を「絞める」をかけた言葉。「占子のうさうさ」とも言います。

子子子子子子子子子子子子(ねこのここねこししのここじし):「宇治拾遺物語」で嵯峨天皇が考えたと伝えられる言葉遊び。「猫の子仔猫、獅子の子子獅子」の意。