1.湯川秀樹博士の二つのエピソード
湯川秀樹博士と言えば、理論物理学者で「中間子の存在を理論的に予言した」として、日本人初の「ノーベル賞」(ノーベル物理学賞)を受賞したことは、皆さんご存知のことと思います。
今回は、博士についてのエピソードを二つご紹介します。
(1)天才なのに偉ぶらない人
一つは、私が大学1年生の時、自然科学史の教授から聞いた話です。教授が自分の著書の推薦文を博士に依頼するため、ご自宅を訪問した際、博士が「私は子供の頃、あまり勉強が出来なかった」と話していると、お茶を持って来た夫人が、「あまり他人様にそのような話をされませんように」と窘(たしな)められたそうです。博士の人柄が滲み出ているようで、一層親近感が湧きました。
(2)痛みは危険信号の役目もある
もう一つは、私が読んだ博士のエッセー(多分、「この地球に生まれ合わせて」だったと思います)の中に出てくる話です。博士の父は小川琢治という地質学者で、兄弟は五人で、長兄が小川芳樹(冶金学者)、次兄が貝塚茂樹(東洋史学者)、弟が小川環樹(中国文学者)(もう一人の弟は戦病死)と、まさに学者一家ですね。
博士が子供の頃、風邪をひいて頭が痛い時、兄(どちらの兄だったか忘れましたが)に、「痛みなんか無ければいいのに」と言ったところ、「痛みがあるから、病気や怪我の症状に気付いて治療することが出来る。痛みがなければ気付かないから病気や怪我が悪化して、最悪の場合死んでしまうんだよ」と諭されたそうです。(私の記憶ベースですが、大体こんな趣旨だったと思います)
私は、この話を読んだ時、兄さんは何とうまい説明をするのだろうと感心しました。
2.痛みが出ない「サイレントキラー」の恐ろしさ
サイレントキラー(silent killer)という言葉があります。直訳すれば「静かな殺し屋」ですが、「それと分かる症状が現れないまま進行し、致命的な合併症を併発する病気」のことで、高血圧・脂質異常症・糖尿病・卵巣癌などがそれに当たります。
膵臓や肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、膵臓癌や肝臓癌も自覚症状が無く見つかりにくい病気です。歯周病も自覚症状が無いため、手遅れになってしまうことが多いそうです。
3.心の痛みに気付くことも大切
ところで「痛み」には、「身体的痛み」だけではなく、「心の痛み」もあります。
国際連合は、1948年(昭和23年)12月10日に「世界人権宣言」を採択しましたが、それを記念して12月10日を「世界人権デー」と定めました。
これを受けて毎年12月には学校や職場で、差別やいじめを無くすための「人権授業・研修」や「人権標語募集」が行われています。
私が現役サラリーマンとして勤めていた職場でも、毎年「人権標語募集」があり、私も応募しました。
「差別とは歯止めの利かない暴走車 やさしさは笑顔を運ぶ快走車」(by historia)
その頃、「ピスト(piste フランス語で、自転車競技場やそのトラックのこと)」と呼ばれるブレーキのない自転車が社会問題になっていました。普通の自転車でも、歩行者との衝突事故が多発している中、この「ピスト」自転車を公道で走らせるのは、危険極まりない行為です。それにヒントを得た標語です。
「痛み」は悪いことばかりではなく、「身体」や「心」の危険を知らせる「危険信号」の役割も果たす大切なものだということですね。