江戸時代でも、武士には武士のストレスがあり、職人には職人なりにストレスがあったと思いますが、現代は昔とは比べ物にならないほどの「ストレスフル社会」です。
各種のハラスメント被害や将来への不安などから「うつ病」を発症する人も増えています。
今回はストレスについて基本に立ち返って、ストレスが体に与える影響、自律神経とストレスの関係やストレスコントロール法について考えてみたいと思います。
1.ストレスが体に与える影響
(1)ストレスとは
ストレスとは外部からの刺激に対する体の反応です。ストレスを感じると、脳がホルモンを分泌し、心拍数の増加・血圧の上昇・肺の拡張や収縮・筋肉の緊張などが生じます。
こうした変化をはっきりと自覚する前に、体は状況に対処しようとします。ストレスフルな状況が終わると、体は“ストレス警報”を発するのをやめ、正常な状態に戻ります。
(2)良いストレスと悪いストレス
体はストレスに自然に反応し、難しい状況や危険な場面に対処します。その反応はまず脳から始まります。適度なストレスは、その場に応じた行動や反応を引き出します。また、試験や仕事の面接、スポーツの試合などで目標を達成し、パフォーマンスを向上させることもできます。
一方、慢性的で過剰なストレスは害になります。体が絶え間なく“ストレス警報”を出し続けると、心と体に不調が現れ、言動や人への接し方に影響が出ることもあります。また、アルコールやドラッグの乱用などの不健康な習慣、うつ病や燃え尽き、自殺願望といった問題を抱えることさえあります。
ストレスが及ぼす影響は人によって異なります。ストレスはさまざまな病気の原因になり、体のほぼ全ての器官に影響を与えます。
(3)ストレスが体に与える影響
①神経系
神経系はアドレナリンやコルチゾールといったホルモンを分泌し、心拍数の増加、血圧や血糖値の上昇を促します。それにより、危険に対して瞬時に反応できます。
過剰なストレスにより現れる症状は、イライラ・不安・うつ状態・頭痛・不眠などです。
②筋肉系
ダメージから身を守るために筋肉が緊張します。
過剰なストレスにより現れる症状は、体の疼(うず)きと痛み・緊張型頭痛・筋肉の痙攣などです。
③呼吸器系
多量の酸素を取り入れるために呼吸が速まります。
過剰なストレスにより現れる症状は、過呼吸・息切れ・それらが引き金になって起きるパニック発作などです。
④循環器系
全身に血液を送るために心臓の鼓動が速まります。筋肉など重要な器官に血液を集中させるため、血管が収縮したり拡張したりします。
過剰なストレスにより現れる症状は、高血圧・心臓発作・脳卒中などです。
⑤内分泌系
分泌腺がアドレナリンやコルチゾールなどのホルモンを出し、ストレスに対する反応を促します。肝臓は血糖値を上げてエネルギーを供給します。
過剰なストレスにより現れる症状は、糖尿病・免疫力低下に伴う病気・気分変動・体重の増加などです。
⑥消化器系
食物を消化する機能が低下します。
過剰なストレスにより現れる症状は、吐き気・嘔吐・下痢・便秘などです。
⑦生殖器系
性欲が減退し、性機能が低下します。
過剰なストレスにより現れる症状は、ED(勃起障害)・生理不順などです。
(4)人間以外のペット動物(犬や猫など)のストレスが体に与える影響
犬や猫などのペット動物でも、人間と同じようにストレスの影響は出て来るそうです。
2.自律神経とストレスの関係
(1)自律神経とは
自律神経とは身体機能を24時間毎日コントロールする神経です。
「交感神経」と「副交感神経」の2種類があり、内臓の機能や代謝・体温などを調節しています。
「交感神経」は活動中に活発となり、「副交感神経」はリラックス中に活発になる神経です。
この2種類の神経の働きにより、心身の調子が変化します。
例えば、交感神経が活発になると血圧の上昇や瞳孔拡大など心身が興奮状態になります。
一方、副交感神経が活発になると血圧の下降による心拍数の減少や、瞳孔縮小など心身が休息状態となります。
(2)自律神経とストレスの関係
自律神経とストレスは密接な関係にあります。
ストレスを受けることで、交感神経が制御する副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。
また、それと同時に副腎皮質内でアドレナリンなどが分泌されます。
コルチゾールとアドレナリンは、血糖値や血圧の上昇・免疫抑制・胃酸の分泌促進などを引き起こす作用があります。
この働きから交感神経が優位になり続けるため、副交感神経とのバランスが崩れていきます。
つまり、ストレスによって自律神経が乱れることがあるということです。
自律神経が乱れると、「自律神経失調症」を引き起こす可能性があります。
そのほか、ストレスが原因で起こる病気や症状としては「うつ病」「片頭痛」「過敏性腸症候群」「不眠症」などがあります。
3.ストレスコントロール法
私たちは、日々たくさんのストレスに囲まれて生きています。例えば、夏の暑さや冬の寒さ、花粉症、近所の騒音、苦手な食べ物
その中でも、いちばん大きなストレスは、学校や職場、家庭内の環境や人間関係、それに付随する怒りや悲しみの感情なのではないでしょうか?
これらのストレスをゼロにすることはできません。しかし、うまく付き合っていくことができれば、今よりもっと生きやすい人生を送ることができます。
適度なストレスは、やる気を引き出したり、気持ちを引き締めたりと、プラスの効果もあります。しかし、心の中にいつまでもストレスを抱え、解消することができないでいると、どんどん心と体が蝕(むしば)まれてしまいます。
ストレスを受けると、脳が反応して、ホルモン分泌を過度に促します。これによってバラスが崩れてしまい、自律神経が乱れ始めます。そして次々に心身の不調を感じるようになります。
例えば、頭痛、肩・背中・腰の痛み、胃痛や腹痛といった痛みを感じるようになったり、不眠や食欲不振、動悸や息苦しさを覚えることがあります。
精神面では、イライラ・焦燥感・不安感、やる気が起きない、などといった不調が起こり、仕事でのミスが増えたり、ついには仕事場へ行くことさえできなくなってしまうこともあるのです。
では次に「ストレスをコントロールする方法」をご紹介します。
(1)自分の強みと弱みを知る
まずは自分をよく知ることから始めましょう。
孫子の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず」というのがありましたね。
自分がどのようなストレスに弱いのかを知っておくことで、あらかじめそれを回避することや、減らすように工夫することができます。
(2)自分の気持ちを大切にする
自分さえ我慢すればうまくいく、という考えの癖を持っている方はいませんか?
確かに、その場はうまくまとまるかもしれませんが、自分自身の心はそのたびにダメージを受け続けています。
相手の気持ちや考えを尊重できるあなたなら、大丈夫です!相手の意見をしっかり受け止めたうえで、自分の意見を相手に伝えてみましょう。これだけでも、欲求が満たされてストレスは和らぎます。
(3)周囲に心を開く
心配事や悩み事を相談できないまま心にしまっている方も、ストレスを溜め込みやすい方です。
自分の周りにいる人たちに、心を開いてお話ししてみるのはいかがでしょう。
最初は難しいと感じるかもしれませんが、普段から、何気ない話をするなどして、良好な人間関係を作っておくことはとても大切です。お互いに助け合い、支えあうことのできる関係を持つことで、ストレスを緩和することができます。
(4)自分の考え方の癖を知る
現実に起こっていることに対して、ポジティブに捉えることのできる人は、ネガティブな人よりもストレスを感じにくいです。
言い換えると、否定的な考え方は目の前の真実を歪ませて、心に大きな傷を与えてしまうことがあるということです。
マイナス思考が癖になっている方は「今起こっている出来事」と「自分の心」を、切り離して考えるように意識することをお勧めします。そして、他の考え方がないかどうか、自分に問いかけてみましょう。
(5)逃げる
このままでは心が壊れてしまう、危険だ、と感じたら、その場から逃げてしまいましょう。
それは時に勇気が必要かもしれません。でも、自分が壊れてしまうくらいなら、逃げてください。健康を取り戻してから、また一つづつやり直せば良いのです。
もう十分に頑張ったのですから、自分に優しくしてあげましょう。
(6)一日一日を生きる
毎日の生活に心配事は付き物です。でも、明日の心配事まで考えないようにしましょう。一日一日を生きましょう。
ストレスは不安の原因になります。こう考えてみてください。どうしても避けられないストレスはあります。そのことを悩んでもストレスが増えるだけです。ただの取り越し苦労だったという場合もよくあります。
個人的な話で恐縮ですが、私は父から「現時点に立って物を考えよ。先のことはあまり心配するな、過ぎてしまったことはくよくよするな」と教えられました。
(7)完璧を求めない
完璧主義になってはいけません。自分や人に現実離れした期待をしないようにします。
自分や人の限界を認めましょう。そうすれば、自分も周囲の人もストレスが減るだけでなく,円滑に物事が進みます。ユーモアのセンスも大切です。うまくいかないときでも、笑うことで緊張がほぐれ、気分が明るくなるものです。
(8)ストレスの原因を見分ける
ネガティブな気持ちになると、的確な判断ができなくなります。冷静になりましょう。
何がストレスになっているかを見分け、ストレスに対する自分の反応を分析しましょう。自分の考えや気持ち・態度に注目します。それらを書き出すこともできます。自分の反応を知るなら、ストレスに上手に対処できます。
また、ストレスをためないためにどうすればいいかを考えましょう。それが難しい場合、ストレスを減らす方法を考えます。例えば,仕事を効率良くこなし、時間を賢く使う方法を探すことができます。
自分の考え方を変えてみましょう。あなたにとってストレスでも、ほかの人にとってはそうではない場合があります。物の見方が違うのかもしれません。3つのヒントを考えましょう。
①人の言動を悪く取らない。列に並んでいて誰かが割り込んできたときに,「わざとやった」と思うと、イライラしてしまいます。「何か事情があったのだろう」と考えるのはどうですか。実際、そうなのかもしれません。
②ポジティブに考える。病院や空港での待ち時間が長いときには、読書や仕事、メールチェックなどの時間ができたと考えましょう。
③広い視野で見る。「この問題は明日も来週も大きな問題のままだろうか」と考えてみてください。ささいな問題か、重大な問題かを区別しましょう。
(9)計画性を持つ
規則正しい生活を意識しましょう。
生活リズムを守ることは大切です。だらだらと過ごしているとリズムが乱れ、それがストレスとなり、仕事がたまってしまうかもしれません。次の2つのことを試してみてください。
①現実的な予定を立て,それを守る。
②生活態度でルーズなところを見分け、直す。
(10)バランスの取れた生活スタイル
仕事中毒になると、「両手いっぱいに仕事を持つ」ことから来る喜びが奪われてしまいます。生活を楽しむ時間や体力が残らないかもしれません。
①仕事やお金に対して現実的な見方をしましょう。お金がたくさんあれば、それだけ幸せになったりストレスが減ったりするわけではありません。収入の範囲内で生活しましょう。
②リラックスできる時間をつくりましょう。好きなことをすれば、ストレスが和らぎます。でも、ただテレビを見るだけで、だらだら過ごしても効果がないでしょう。
③パソコンやスマホの使用はほどほどにしましょう。メールやメッセージ、SNSをチェックし過ぎないようにします。仕事時間外には,やむを得ない状況を除き,仕事関連のメールを見ないようにします。
(11)健康に気を配る
定期的な運動は健康を促進します。
①健康に良い習慣を始めてみましょう。体を動かすと気分が晴れやかになり、ストレス耐性が高まります。バランスの良い食事を心掛け、食事を抜かないようにしましょう。十分な休息も大切です。
②ドラッグやアルコールの乱用・喫煙など体に有害な“ストレス解消法”は避けてください。長期的にはストレスが高まり,苦労して稼いだお金や健康を失いかねません。
③ストレスによる症状がひどくなる前に、医師に相談しましょう。専門家に助けてもらうのは恥ずかしいことではありません。
(12)優先順位をつける
優先順位をよく考えましょう。
①やるべきことを重要だと思う順にリストアップしましょう。重要度の高い仕事はすぐに取り掛かり、そうでない仕事は遅らせたり、誰かに任せたりします。やらないという判断もできるかもしれません。
②1週間の時間の過ごし方を記録しましょう。そして、より有効な時間の活用法がないかを考えます。もっと上手に管理できれば、それだけストレスも減ることでしょう。
③休息の時間も予定に入れましょう。ちょっと気分転換するだけでも元気になり、ストレスを軽減できます。
(13)人に助けてもらう
親切で思いやりのある言葉を掛けてもらうと、元気が出ます。
①信頼できる友人に話を聞いてもらいましょう。新鮮な見方や、見過ごしていた解決策を教えてくれるかもしれません。悩みを打ち明けるだけでも気持ちが楽になります。
②手伝ってもらいましょう。誰かに仕事を任せたり、分担したりできます。
③職場の同僚がストレスになっている場合、改善する方法を探しましょう。例えば、その人の言動をどう感じているか、敬意を込めつつ上手に伝えられるでしょうか?
それでもうまくいかないなら、その人と一緒にいる時間を減らせますか?
このほかにも、「所さんの目がテン」という番組で紹介された「副交感神経を上げる方法」もあります。
順天堂大学の小林先生が教えるストレス対処法のポイントは「副交感神経を上げること」。交感神経優位になりがちな現代人。副交感神経を優位にする、どこでも気軽に出来る対処法があるといいます。
一つ目は「ため息」。専門家によると「ため息をつく前は、心配事や不安なことが多いので呼吸をしていなかったり浅かったりする、そのリカバリーショットがため息になっている」とのこと。
<ストレスに効くため息>
・4秒鼻から息を吸い
・8秒で吐く ※吐く息を長く
・これを1分間繰り返す
4秒吸って8秒吐く。この秒数が重要!首の頸動脈付近に副交感神経に関わるセンサーがあり、これが息を吐く時に刺激され副交感神経の活動が優位になるのです。
二つ目は「作り笑い」。人間は緊張したり、ストレスがかかっていると顔がこわばり、表情筋が硬くなる。そこで、作り笑いをすることによって筋肉を緩め、顔の血流を良くし、副交感神経を活性化させる。
<ストレスに効く作り笑い>
・口角を上げたり下げたりする
・これを1分ほど繰り返す
前に「コロナ疲れ・コロナストレス・コロナうつの予防と対処法」や「レジリエンスとはストレス社会に特に必要な能力!グリーンレジリエンスも紹介」「マインドフルネス瞑想法を紹介した吉田昌生氏の1分間瞑想法」「cocorusはマインドフルネス瞑想を提供するリラクゼーションアプリ」という記事も書いていますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。