「世界食糧計画」(WFP)の「ノーベル平和賞」受賞には疑問がある

フォローする



世界食糧計画がノーベル平和賞受賞

ノルウェーのノーベル委員会は2020年10月9日、今年の「ノーベル平和賞」を飢餓の現場に食糧を届ける「世界食糧計画」(WFP、本部:ローマ)に授与すると発表しました。

「新型コロナウイルス」の感染拡大で、飢餓の状況が厳しさを増す中での授賞となりました。

国際連合自体や国連関係機関に同賞が贈られるのは9回目にもなり、今回は「コロナ禍での国際協調を促す狙い」があるようです。

ただ、「ノーベル平和賞」については、授与基準に照らして授賞に首を傾げたくなるケースが多く、私は以前から疑問を持っていました。

アウン・サン・スーチーマララさん

前に「ノーベル平和賞は以前から政治的思惑で授与されて来た」という記事を書きましたが、トランプ大統領や南北朝鮮の首脳は全く論外です。今年の授賞も同様に疑問です。

そこで今回は「ノーベル平和賞」の問題について考えてみたいと思います。

1.「ノーベル平和賞」とは

ノーベル平和賞

「ノーベル平和賞」は、ダイナマイトを発明したスウェーデンの発明家・実業家のアルフレッド・ノーベル(1833年~1896年)の遺言によって創設された5部門のうちの一つです。

彼は、「スウェーデンとノルウェー両国の和解と平和を祈念」して、平和賞の授与はノルウェーで行うことにしました。そして「平和賞のみ、ノルウェー政府が授与主体」です。

選考は、ノルウェーの国会が指名する5人の委員とその中から選ばれる代表者で構成されるノルウェー・ノーベル委員会(委員の任期は6年)が行います。各国に「推薦依頼状」を送り、推薦された候補者から選定されます。

授賞基準」は、「国家間の友好関係、軍備の削減・廃止、及び平和会議の開催・推進のために、最大・最善の貢献をした人物・団体」に授与すべしとされています。

2.「世界食糧計画」がなぜ「ノーベル平和賞」に値するのか?

「世界食糧計画」などの「国連の各種機関」は、それぞれの与えられた任務を「本来の仕事」として行っているだけであり、授賞基準に該当するとは思えません。

極端に言えば、「世界食糧計画」が受賞できるのであれば、他の国連機関も全て受賞できる理屈になります。

ちなみに、「ノーベル平和賞」を受賞した「国連の機関」は次の通りです。

①「国際連合難民高等弁務官事務所」(1954年)

「東西冷戦下のための政治的、法的保護に対して」

②「国際連合児童基金(ユニセフ)」(1965年)

「国際援助機関として」

③「国際労働機関(ILO)」(1969年)

「労働条件や生活水準の改善のための取組みに対して」

④「国際連合難民高等弁務官事務所」(1981年)

「難民の移住と定着と処遇の改善に資する活動に対して」

⑤「国際連合平和維持活動(PKO)」(1988年)

「国連の基本的信条の実現に向けての重要な貢献に対して」

⑥「国際連合」(2001年)

「より良く組織され、より平和な世界のための取組みに対して」

⑦「国際原子力機関」(2005年)

「原子力エネルギーの平和的利用に対する貢献に対して」

⑧「化学兵器禁止機関」(2013年)

「化学兵器の排除のための多大な努力に対して」

⑨「「国際連合世界食糧計画(WFP)」(2020年)

「飢餓克服への努力、紛争地域の平和のための貢献、そして飢餓を戦争や紛争の武器として使用することを防ぐための努力において原動力としての役割を果たしたことに対して」

それと、現在支援を受けている発展途上国は、それぞれの国の政治家が責任を以て飢餓をなくす努力をすべきもので、宗教問題や民族問題を理由に内戦を繰り返したり、独裁者たちが国民の貧困や飢餓をよそに贅沢で優雅な生活を送っていることこそが問題です。

そして、今後予想される「人口爆発」による食糧難に対する対策としての「人口抑制政策」(例:中国の「一人っ子政策」「二人っ子政策」)などの措置を取らずに、人口激増を放置していることも問題です。

そういう「問題の根本原因」となっている元凶を潰さずに、食糧配給だけを行っているのは穴の開いたバケツに水を入れ続けるようなもので、日本も莫大な金額を負担している国連の拠出金の浪費です。

現在の「国連の運営の問題点の指摘と変革」を提言し推進するのは、日本の重要な役割ではないかと思います。

3.過去の「ノーベル平和賞受賞者」で、物議を醸した人々

有名なノーベル平和賞受賞者

平和賞受賞者が、その後に世界の失望を招くこともあり、問題視されています。受賞者の一部には戦争を助長したと思われる行動を取った人もおり、「ノーベル平和賞ではなくノーベル戦争賞」という皮肉もあります。

2015年10月9日付けの「ディ・ヴェルト」(ドイツの一般的な日刊新聞)は、「ノーベル平和賞における巨大な誤った決定」との見出しで、同紙が疑問に思う「ノーベル平和賞受賞者」を列挙しました。

(1)母国で「政治犯とされている人物」への授賞

当事国政府から強い反発を招く。また受賞者が政治犯として当事国に拘束されていたり、出国が認められなかった場合は、本人が授賞式に出席できないケースがたびたびある。

オシエツキー(1935年、ナチスドイツ)、サハロフ(1975年、ソ連)、ワレサ(1983年、ポーランド)、アウンサンスーチー(1991年、ミャンマー)、劉暁波(2010年、中国)

(2)「非核三原則の提唱」で受賞した佐藤栄作(1974年、日本)

在日米軍の「核兵器持ち込みに関する密約」が結ばれていたことを、2010年に政権交代後の「民社国連立政権」が認め、「日米核持ち込み問題」として物議を醸した。

(3)「史上初の南北首脳会談の実現」で受賞した金大中(2000年、韓国)

政権発足当時から組織的な「受賞工作」を行っていたことや、「会談の相手国の北朝鮮に5億ドルの不法送金」を行っていたことが、アメリカに亡命した韓国国家情報院の元職員によって暴露され、「カネで買った平和賞」との批判が巻き起こった。

(4)「ベトナム戦争のパリ協定調印」で受賞したキッシンジャー(1973年、アメリカ)

キッシンジャーと北ベトナムのレ・ドゥク・トが「共同受賞」したが、キッシンジャーへの授与にはノーベル平和賞委員会でも激しい議論が起き、反対した2人の委員が抗議のため辞任した。レ・ドゥク・トは、「ベトナムに平和が訪れていないこと」を理由に受賞を辞退した。

その後、北ベトナムはパリ和平協定を破って、南ベトナムへの攻撃を再開し、1975年にサイゴンを陥落させてベトナム全土を武力統一し、1976年にベトナム社会主義共和国を樹立した。

(5)「パレスチナ和平合意締結」で受賞した両者がその後戦闘を再開

1994年にイスラエルのラビン首相とペレス外相、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長が共同受賞したが、パレスチナの和平は続かず、やがて武力紛争が再開された。

(6)「イラク戦争」に批判的な態度を理由に受賞

カーター元大統領(2002年、アメリカ)とエルバラダイ国際原子力機関事務局長(2005年、エジプト)の二人の受賞は、「ジョージ・ブッシュ政権への批判」であると指摘されている。

(7)「環境問題提起」で受賞したゴア元副大統領(2007年、アメリカ)

2000年の大統領選挙でゴアとともに大統領候補だったセンドラーのほうが、平和賞の趣旨に沿った活動をしていたとの根強い批判がある

(8)「核軍縮政策の呼びかけ」を理由に受賞したオバマ前大統領(2009年、アメリカ)

チェコのプラハでの「核なき世界」演説が有名だが、「演説だけで受賞」という揶揄や、大統領就任1年目で実績が乏しかったため、「時期尚早ではないか」との議論が巻き起こった。

その後、2015年にアフガニスタンで、1999年受賞者である「国境なき医師団」が運営する病院を誤った情報に基づいて攻撃し、「戦争犯罪」と指弾された。

(9)「ヨーロッパの平和と和解への長年の貢献」を理由に受賞した欧州連合(2012年)

評価する声がある一方、通貨ユーロのソブリン危機の影響が強い中での受賞に、「政治的に利用されるための道具となっている」との批判が出た。

(10)「児童と青年への抑圧に対する戦いと全ての児童の教育を受ける権利への貢献」で受賞

スクールバスに乗っている時にタリバンの銃撃を受け、一命をとりとめた17歳のマララ(パキスタン)は、女性の教育を受ける権利や平和を訴える活動を始め、2014年に平和賞を受賞。

しかし、「若過ぎではないか」「イスラム国家を敵に回した」などの批判が出た。

2015年の「ディ・ヴェルト」の記事以降の動きですが、「核廃絶運動」を理由に受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(2017年、スイス)」については、アメリカやロシアなど主要核保有国の駐在大使が授賞式出席をボイコットして反発しました。

もう一つ、「ミャンマー民主化運動の指導者」を理由に受賞したアウンサンスーチーについても次のような批判が起きています。

2016年の総選挙で、彼女が率いる「国民民主連盟」が大勝して、事実上の最高指導者である「国家顧問」に就任しましたが、「民族浄化」との指摘もある「ロヒンギャ迫害問題」への対応が消極的であるとして、平和賞の取り消しを求める請願運動がインターネット上で行われ、36万人を超える署名が集まりました。

これに対して選考委員会は、「取り消しに関する条項が存在しない」ことを理由に取り消しは行わないとの声明を出しています。

4.ノーベル平和賞の運営姿勢を見直す必要がある

医学・物理・化学の科学3賞は、業績に対してある程度客観的な評価と期間を経て選考・決定されますが、平和賞は「現在進行形の事柄に関わる人物」も受賞対象になるため、毎年選考に向けて、選考委員に対するロビー活動や政治行動が多く起こります。

そのため、政治色が強くなりがちで、選考結果をめぐって世界中でたびたび議論が起きます。

平和賞についても科学3賞のように、「授賞対象となる活動が行われた後一定の年数を経て歴史的評価が定まってから授与する」など「選考方法の見直しが必要だと私は思います。

オバマ前大統領が、北朝鮮の金正恩委員長に対して、「ノーベル平和賞」を狙えと発言したそうですが、これもトランプ大統領に勝るとも劣らない無責任な発言だと思います。

本来なら、「戦後75年間も平和を守り通した日本のような国」、あるいは「原水爆禁止を訴え続けて来た被爆者団体」こそ、「ノーベル平和賞」を受けるに値すると私は思うのですが・・・

この際、「ノーベル財団」にも、「第三者委員会」でも入れてその運営姿勢を正す必要があるのではないでしょうか?ただ、現実にはなかなか難しいと思いますが・・・。