同音類義語の使い分け(その3)発憤と発奮、暗唱と暗誦と諳誦、相違と相異

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発憤興起

発音は同じだが、互いに区別される語」である「同音異義語」(英語では「homophone(ホモフォン)」と言います)は、「いどう」(移動・異動・異同・医道など)、「かんし」(監視、看視、環視、冠詞、諫止、漢詩、菅氏など)、「きかん」(期間、機関、器官、気管、帰還、基幹、季刊など)のように日本語にはたくさんあります。

しかしこれらはそれぞれ全く意味が異なる言葉なので、使い方に迷うことはありません。

一方、「発音が同じで、意味もよく似た語」である「同音類義語」については、使い分けに悩むことも多いのではないでしょうか?

前に「同音類義語の使い分け(その1)事典と辞典と字典、製作と制作、更生と更正」「同音類義語の使い分け(その2)食糧と食料、生育と成育、特徴と特長、稼働と稼動」という記事を書きましたが、ほかにもまだまだありますのでご紹介します。

1.発憤と発奮

(1)発憤

発憤」は、これから大いに励もうと考えて精神をふるい起こすことですが、「いきどおりをおこす」というニュアンスがあります。

(2)発奮

一方、「発奮」は、同じくこれから大いに励もうと考えて精神をふるい起こすことですが、「おこしふるう」というニュアンスの違いがあります。

『集注』には、「憤ハ心通ズルヲ求メテ未ダ得ザルノ意」と書かれています。その点では「奮ハ揚ガルナリ」と積極性において相通じるところがあります。

「発憤」を含む四字熟語に「発憤興起(はっぷんこうき)」がありますが、「発奮興起」とも書きます。意味は「心を奮い起こして立ち上がること。気持ちを奮い立たせて、つとめ励むこと」です。

「発憤」は心を奮い立たせること、「興起」は奮い起こす、立ち上がることです。

2.暗唱と暗誦と諳誦

記憶した文章を何も見ずに口に出して言うことを「あんしょう」と言います。ただ、この場合に漢字の表記の仕方が問題になってきます。

あんしょう【暗唱/暗×誦/×諳×誦】

暗記したことを口に出して唱えること。あんじゅ。「詩を―する」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

(1)暗唱

元々、「」という字は「くらい・先がない・ものがみえない」などの意味として使われていました。また、場合によっては「そらんじる」という意味としても使われることもありました。

「そらんじる」とは「そらにすること」を表し、「書かれたものを見ないで口に出して言うこと」です。

そして、「」という字は「うたう・となえる・声を出してものを言う」の意味がありました。

この両者が合わさることで、現在の「暗記したことを口に出して唱えること」という意味になったと言われています。

(2)暗誦

また、「暗誦」の「誦」ですが、「」にも「となえる・口に出して言う・声を出して読む」などの意味があります。比較しても分かるように、「唱」とほぼ同じ意味です。

ここから同じく、「暗誦」も「何も見ずに口に出して言うこと」という意味で使われていたということです。

(3)諳誦

最後の「諳誦」は当て字で、元は「あんじゅ」と読んでいました。しかし、現在では「あんしょう」とも読める漢字です。

では、それぞれの「あんしょう」は全く同じ言葉なのか?と問われるとそうではありません。

「誦」は、漢音だと「ショウ」、呉音だと「ジュ」と読みます。対して、「唱」は漢音、呉音ともに「ショウ」と読みます。

すなわち、「唱」の方は「ジュ」とは読まないということです。

中国の古い文献には、「暗誦・諳誦」があり、日本には「闇誦」もあります。「暗誦」は「あんじゅ」とも読まれ、古くから用いられてきました。

特に小説文などの文芸作品では「暗誦」が用いられています。

余談ですが、「暗誦」は非常に有効な勉強法だと私は思っています。特に中学生・高校生時代に暗唱した有名な古典の文章や百人一首などは70歳を過ぎた今でも覚えており、私の血肉となっている感じがします。

数年前に話題になった「新スパルタ幼稚園」の教育方法もあながち間違いではないと私は思います。

3.相違と相異

(1)相違

相違」とは、ふたつの 事項 を 対照 して 一致 しない 部分 がある、それぞれ 違い があることを意味する語です。

「相違」は、主に「相違する」「 相違点 」「 相違ない 」というような 言い方 でよく用いられます。「 相違点 」は「 食い 違っている 部分 」を、「 相違ない 」は「 食い 違っている 部分 がない(= 同一 である)」ことを意味する 表現 です。

慣用的 な 言い回し で「 案に相違する 」という 表現 も あります 。「案」はここでは「 予想 」「 当初 の 見立て 」といった 意味合い です。

(2)相異

相異」は互いに 食い違う 部分 があることを意味します。

「相違」と「相異」に共通する「」には「互いに」という意味があります。すなわち、「二つの物事が関係し合っている状態」ということです。

そして、「」は「(くい)ちがい、不一致」、「」は「ことなり、別の」などの意味があります。

結論としては、「相違」と「相異」という言葉の意味はほぼ同じなので、「同音類義語」というよりも「同音同義語」「同語異記」「表記の揺れ」といったほうがよいかもしれません。

ただし、「相違」と表記されることが一般的であり、「相異」はあまり使われていません。

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