漢字の「音読み」と「訓読み」については、次のような面白い話があります。
ちなみに「音読み」は中国式の「発音」に基づくもので、「訓読み」は日本語の「意味」に基づく読み方です。
1.「音読みと訓読みが同じ」の珍しい漢字
・死:シ/し(ぬ)
古語では「死ぬ」ことを、「息絶ゆ(いきたゆ)」「相果つ(あいはつ)」「身罷る(みまかる)」「亡す(うす)」「往ぬ(いぬ)」「隠る(かくる)」とも言いましたが、「死す」「死ぬる」という言葉も使われています。
「死ぬ」の語源は (1)息がなくなる意のシイヌ(息去)の義[日本語源学=林甕臣]。シイヌル(息逝)の義[松屋棟梁集]。(2)サリヌルの反[名語記]。(3)スギイヌル(過往)の義[名言通]。(4)シヲルル、シボム、シヒルの義と通じる[国語の語源とその分類=大島正健]。(5)シは〆領る、ヌは歇了る義[国語本義]
など、諸説あるようです。
したがって「死」の訓読みが音読みと同じになったのは、「たまたま偶然に同じになった」ということのようです。
2.同じ漢字の熟語で、異なる複数の読みがあるもの
このように「同じ漢字で異なる複数の読みがある場合」は 「同字異音語(どうじいおんご)」または「同形異音語(どうけいいおんご)」 と言います。「同表記異音語(どうひょうきいおんご)」「同綴異音語(どうてついおんご)」とも言います。
(1)音読みと訓読みで意味が変わるもの
・最中:サイチュウ/もなか
・細目:サイモク/ほそめ
・市場:シジョウ/いちば
・初心:ショシン/うぶ
・真面目:シンメンモク(シンメンボク)/まじめ
・生物:セイブツ/なまもの
・大事:ダイジ/おおごと
・目下:モッカ/めした
・下手:ゲシュ/したて・しもて
(2)別の音読みで意味が変わるもの
・分別:フンベツ/ブンベツ
・心中:シンジュウ/シンチュウ
・二女:ニジョ/ジジョ
・一分:イップン/イチブ
・十分:ジップン/ジュウブン
・二歩:ニホ/ニフ
・一行:イッコウ/イチギョウ
・工夫:クフウ/コウフ
・自重:ジチョウ/ジジュウ
・造作:ゾウサク/ゾウサ
・追従:ツイジュウ/ツイショウ
・同人:ドウジン/ドウニン
・評定:ヒョウジョウ/ヒョウテイ
3.異なる漢字で、音読みと訓読みが同じで、しかも意味がほぼ同一(または類似)の漢字
このように「同じ音の語や字でありながら、別の文字である場合は、一般に「同音異字(どうおんいじ)」と言います。
「同音異字」の例は無数にありますが、中には紛らわしいもの、意味が逆のもの、意味が似ているものもあります。ここでは、意味が似ているものを取り上げます。
・「花」と「華」:カ/はな
・「究」と「窮」:キュウ/きわめる
・「形」と「型」:ケイ/かたち
・「弦」と「絃」:ゲン/つる
・「付」と「附」:フ/つける
4.読み方が「音読みだけ」の珍しい漢字
・菊:キク
・茶:チャ・サ
・絵:カイ・エ
・蜜:ミツ
・荢:ウ
・饂:ウン
・鱇:コウ
・癪:シャク
・膵:スイ
・燵:タツ
・鋲:ビョウ
5.読み方が「訓読みだけ」の珍しい漢字
これは主に、日本で作られた漢字である「国字」です。
①あ行
圷(あくつ)・塰(あま)・艠(いかだ)・鰯(いわし)・鯎(うぐい)・褜(えな)・蛯(えび)・魞(えり)・俤(おもかげ)・颪(おろし)
②か行
餝(かざり)・樫(かし)・鮖(かじか)・鎹、銯(かすがい)・鯑(かずのこ)・桛(かせ)・楿(かつら)・叺(かます)・裃(かみしも)・鱚(きす)・喰(くう、くらう)・椚、椢、椡(くぬぎ)・粂(くめ)・俥(くるま)糀(こうじ)・凩(こがらし)・鮗(このしろ)・鞐(こはぜ)・込(こめる、こむ)・怺(こらえる)
③さ行
榊(さかき)・笹(ささ)・扨(さて)・鴫(しぎ)・梻(しきみ)・雫(しずく)・躾(しつけ)・〆、乄(しめ)・鯱(しゃちほこ、しゃち)・杦、椙(すぎ)・辷る(すべる)・杣(そま)・艝、轌(そり)
④た行
凧(たこ)・襷(たすき)・椨(たぶのき、たぶ)・閊(つかえ、つかえる)・鶫(つぐみ)・辻(つじ)・褄(つま)・峠(とうげ)・栃、杤(とち)・魹(とど)・鞆(とも)
⑤な行
凪(なぎ)・屶(なた)・鳰(にお)・匂(におい、におう)・垈(ぬた)
⑥は行
萩(はぎ)・硲(はざま)・籏(はた)・畑、畠(はたけ)・鱩(はたはた)・噺(はなし)・稗(ひえ)・梺(ふもと)・塀(へい)・袰(ほろ)
⑦ま行
柾(まさき、まさ)・桝、枡(ます)・俣(また)・麿(まろ)・毟、挘(むしる)・杢(もく)・籾(もみ)・椛(もみじ)・匁(もんめ、め)
⑧や行
軈(やがて)・萢(やち)・鑓(やり)・裄(ゆき)
⑨わ行
枠(わく)
ただしややこしいことに、「国字」の中にも、「音読みと訓読みがある国字」や「音読みのみの国字」もあります。これについては「国字とは何か?作られた理由と具体例を分かりやすくご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、興味のある方はご一読ください。