日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.鰈/カレイ(かれい)
「カレイ」とは、カレイ目カレイ科の魚の総称です。体は平たい楕円形で、一般に頭部が右にねじれ、両眼が体の右側にあります。
カレイの語源には、一方に眼がついており体の色も左右で色が異なることから、片割れのような魚の意味で「カタワレイオ(片割れ魚)」が変化したとする説があります。
しかし、これは古名を無視して考えられた俗説です。
古名は「カラエヒ(カラエイ)」で、これが転じて「カレイ」となりました。
平安中期の『本草和名』にも、「加良衣比(カラエヒ)」とあります。
「カラエヒ」の「エヒ」は魚のエイのことで、体が平たく形が似ており、カレイがエイの一種と考えられていたためです。
「カラ」は「枯れる」の意味で、体色が枯れた葉の色に似るところからです。
漢字の「鰈」にも、薄くて平らなといった意味がある「葉」の字が使われています。
「左ヒラメに右カレイ」と言い、普通は腹を手前にしたときに目が右側にくるのがカレイですが、ヌマガレイは左側に目があります。
「鰈」については、いくつかの季語があります。「干鰈(ほしがれい)」「蒸鰈(むしがれい)」は春の季語、「寒鰈(かんがれい)」「霜月鰈(しもつきがれい)」は冬の季語です。
・干鰈 桃散る里の 便かな(室生犀星)
・砂浜や 松折りくべて 蒸鰈(内藤鳴雪)
2.金に糸目を付けない(かねにいとめをつけない)
「金に糸目をつけない」とは、惜しげもなくいくらでもお金を使うことです。「金に糸目をつけぬ」とも言います。
「糸目」とは、揚げた凧のバランスをとるため、表面につける数本の糸のことです。糸目をつけていない凧は制御できないため、風に任せて飛んでいってしまいます。
そんな糸目をつけていない凧にたとえ、制限なくお金を使うことを「金に糸目をつけない」というようになりました。
3.稼ぐ(かせぐ)
「稼ぐ」とは、働いてお金を得る、利益を得る、一生懸命に働く、得点をあげる、都合のよい状態になるまで時間を引き延ばすことを意味します。
稼ぐは、元々、お金を得ることが主ではなく、仕事に励むことを表した言葉です。
そこから、「生計のために働く」「働いて収入を得る」といった「お金を得る」意味が含まれるようになり、「得る」の意味から、得点をあげたり、自分に都合の良い状態になるまで時間を経過させることも、「稼ぐ」というようになりました。
稼ぐの語源には、紡いだ糸を巻き取る道具の「かせ(桛)」に由来するとする説があります。
紡いだ糸をかせに巻くことを「かせぐ」と言い、かせは休みなく動いているように見えることから、かせのように仕事に励むことを「かせぐ」といったものと考えられます。
また、稼ぐの「かせ」は「かせ(日迫)」の意味で、昼夜に迫り、止まる所を知らないことをいったとする説もあります。
上記二説は異なりますが、休む間もなく働くことに由来する点では似ており、本来の「稼ぐ」の意味にも通じます。
4.黴(かび)
「カビ」とは、菌類のうちキノコを生じないものの総称です。主に糸状菌で、飲食物・衣服・器具などの表面に発生します。
カビの語源は、発酵する意味の「カモス(醸す)」の元の形「カム(醸)」の異形が「カブ(醸)」で、発酵してカビが生えることを「カブ」といい、その連用形から名詞に転じたとする説が有力とされています。
ただし、『古事記』の「葦牙の如く萌え騰る物に因りて」に見られる「牙」は「カビ」と読み、植物の芽を意味しており、「黴」と同源と考えられます。
「牙」と「黴」が同源となると、「醸す」を語源とするのは困難です。
「牙」を考慮すると、毛が立って皮のように見えるところから「カハミ(皮見)」とする説や、「カ」が「上」を表し、「ヒ(ビ)」が胎芽を意味する「イヒ」とする説が有力になります。
5.氈鹿/羚羊/カモシカ(かもしか)
「カモシカ」とは、偶蹄目ウシ科ヤギ亜科のヤギ族以外の哺乳類のことです。
カモシカは漢字で「氈鹿」と書くのが本来の形です。
「氈(かも)」とは毛織の敷物「毛氈(もうせん)」のことで、毛氈を作るのに適した毛の鹿が名前の由来です。
ただし、カモシカはシカ科ではなく、ウシ科に属します。
古く、カモシカは「にく(褥)」とも呼ばれました。
「褥」は毛の敷物の「しとね」のことで、意味的にはカモシカの語源と同じです。
漢字では「羚羊」とも書きますが、「羚羊」は「レイヨウ」という別種です。
人間の美脚をたとえて「カモシカのような足」と言う際の「カモシカ」も「レイヨウ」のことを指しており、実際のカモシカの脚は太いため、とても美しいとは言えません。