日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.下戸(げこ)
「下戸」とは、酒が飲めない人のことです。
下戸は、律令制で「大戸・上戸・中戸・下戸」と呼ばれる四等戸の最下級です。
「戸」は課税の最小単位で、家族の人数や資産によって四等戸が決められていました。
婚礼時の酒の量が、上戸は八瓶、下戸は二瓶であったことから、酒が飲めない人を「下戸」と呼ぶようになり、酒をよく飲む人を「上戸」と呼ぶようになりました。
日本のように、貧富の差から飲酒量をたとえた言葉は中国にもあり、「大戸」や「小戸」と呼ばれています。
2.下手物/ゲテモノ(げてもの)
「ゲテモノ」とは、一般の人からは価値を認められない風変わりで珍奇なもの、粗末な安物のことです。
ゲテモノは漢字で「下手物」と書き、精巧で豪華で洗練されているものを意味する「上手物(じょうてもの)」の対語になるため、下手で拙いことを語源とする説が多いようです。
しかし、「上手物」は「ゲテモノ」が「下手物」と当て字されてから生まれた言葉であるため、この説は妥当ではありません。
「ゲテモノ」の「ゲテ」には、等級の劣る意味の「下等(げとう)」や、本筋から外れる意味の「外道(げどう)」とする説があり、このどちらかと思われます。
最近、徳島県の公立高校が給食でコオロギパウダーやコオロギエキスを使った料理を出して、話題になりました。栄養バランスと環境負荷が少ないタンパク源として評価する意見がある一方、SNSでは「コオロギ食は安全性に不安」や「多額の税金を投入する必要はない」「コオロギ食には意味がない」といった批判も起きました。
「昆虫食」については、「人口爆発による将来の食糧難時代に昆虫食は救世主となるのか?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
3.けりをつける
「けりをつける」とは、決着が容易でなかった物事に結論を出して終わりにすることです。
けりをつけるの「けり」は、助動詞の「けり」です。
和歌や俳句などの古典文章では、助動詞「~けり」と付けて終わるものが多いことから、結末を迎えることが出来たという意味で、「けりをつける」と使われるようになりました。
一説には、語り物や謡い物で「そもそも」と語りだし、「けり」で納められていたことに由来するともいわれます。
4.けちょんけちょん
「けちょんけちょん」とは、非常に痛めつけたり、徹底的にやっつけるさまのことです。
けちょんけちょんの語源は、和歌山県日高郡の「けちょに」という方言です。
「けちょに」は、「非常に」という意味で使われていました。
「けちょに」が使われる地域が広がるうちに、「けちょんけちょん」と言うようになり、現在の意味も持つようになりました。
また、難癖をつける意味の「けちをつける」の「けち」が語源とも言われますが、「けち」から「けちょん」への変化が考え難いものです。
ただし、「けちょに」が「けちょんけちょん」となり、現在の意味となる過程で「けち」の連想が含まれていた可能性は考えられます。
5.卦体/怪態/怪体(けったい)
「けったい」とは、不思議なさま、奇妙なさまのことです。
けったいは、占いの結果を意味する名詞「卦体(けたい)」が促音化した言葉です。
本来は「卦体が悪い」という言い方で、縁起が悪い意味を示していましたが、略されて「卦体」のみで使用されるようになり、「忌々しい」や「奇妙だ」という意味になりました。
世にも稀なことを意味する「希代(きたい)」が変化し、「けったい」になったとする説もありますが、「卦体」の説が有力とされています。
けったいは、私も「けったいな人」や「けったいな服装」などとよく使います。そのため大阪や京都の方言とされることもありますが、主に関西地方で用いられる言葉というだけで、それ以外の地域でも使われています。
漢字は「卦体」「怪態」「怪体」の表記が見られますが、「卦体」は語源から、「怪態」と「怪体」は意味からの当て字で、「けったい」に決まった漢字はなく、普通はひらがな表記します。