日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ダウ平均(だうへいきん)
「ダウ平均」とは、株式市場の株価水準を表す平均株価のことです。特殊な変動を修正して計算し直した修正平均株価の代表的なものです。ダウ。NYダウ。ニューヨーク株式指数。
ダウ平均は「ダウ式平均株価」の略で、アメリカのダウ・ジョーンズ社(Dow Jones)が開発し発表していることからこう呼ばれます。
日本では、日本経済新聞社がダウ・ジョーンズ社と独占契約をし発表している「日経平均株価」がこれに相当します。
2.竹(たけ)
「竹」とは、イネ科タケ亜科の多年生常緑植物のうち大形のものの総称です。一般に小形のものは「ササ(笹)」と呼ばれます。
竹の語源には、「高(たか)」「丈(たけ)」と同源で高く伸びるものの意味。
タケノコの旺盛な成長力から、「タケオフ(長生)」の意味。
「タカハエ(高生)」の約とする説。
朝鮮語で「竹」を意味する「tai(タイ)」からなど、多くの説があります。
「高」や「丈」と「竹」は、アクセントが異なるため難しいとの見方もあるが、区別するためにアクセントが変わった可能性もあります。
また、朝鮮語「tai」の説には、和語として「高」や「丈」の意味に分化したとする説や、「タ」が朝鮮語「tai」からで、「ケ」が「木」の意味からとする説もあります。
「若竹」「筍/竹の子」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・若竹や 竹より出て 青き事(立花北枝)
・空へ若竹の なやみなし(種田山頭火)
・うきふしや 竹の子となる 人の果(松尾芭蕉)
・竹の子の 力を誰に たとふべき(野沢凡兆)
3.滝(たき)
「滝」とは、高い崖から流れ落ちる水の流れのことです。
滝は、「水が沸き立つ」「水が激しく流れる」といった意味の「たぎつ(滾つ・激つ)」と同源です。
奈良時代には、「たき」と「たぎ」の両形が見られます。
この頃は、「急流」「激流」など川の流れの激しい所をいい、現在の「滝」にあたる言葉は「たるみ(垂水)」でした。
平安時代以降、「たき」で定着し、現在と同様の意味で用た例が見られるようになります。
漢字の「滝(瀧)」は、水が龍のように長く太いすじをなして流れ落ちるさまを表した会意兼形声文字です。
「滝」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・うら見せて 涼しき瀧の 心哉(松尾芭蕉)
・奥や滝 雲に涼しき 谷の声(宝井其角)
・神にませば まこと美はし 那智の滝(高浜虚子)
・羽衣の ごとくに滝の 吹かれをり(長谷川櫂)
4.辰(たつ)・辰年(たつどし)
「辰」とは、干支(十二支)の5番目です。年・日・時刻などにあてます。方角の名で「東南東(東から南へ30度の方角)」。旧暦3月の異称。前は卯、次は巳。
「辰年」とは、西暦年を12で割った際、余りが8となる年です。
漢字の「辰」の原字は「蜃」。
「蜃」は、二枚貝が開き、弾力性のある肉をピラピラと動かしているさまを描いたもので、「振」「震」の意味を持ちます。
『漢書 律暦志』では「動いて伸びる」「整う」の意味とし、草木が盛んに成長し形が整った状態を表すと解釈されています。
この「辰」を「竜(龍)」としたのは、無学の庶民に十二支を浸透させるために動物の名前を当てたものですが、順番や選ばれた理由は定かではありません。
5.竹光(たけみつ)
「竹光」とは、竹を削って刀身とし、刀のように見せかけたものです。切れ味の鈍い刀をあざけっていう語。
竹を削って銀箔やアルミ箔を貼り、光り輝く刀のように見せたところから「竹光」と呼ぶわけではありません。
「光」は、「吉光」や「兼光」「国光」など、名高い刀匠の名に多くつけられていたものです。
竹光は、洒落ぎみにその「光」をつけた造語です。
竹で作られているため、竹光は本物の刀のように切れるわけがないことから、切れ味の悪い刀も「竹光」と呼ばれます。
6.大枚をはたく/大枚を叩く(たいまいをはたく)
「大枚をはたく」とは、多額のお金を使うことや、お金を使い切ることです。
大枚とは、多額のお金のことです。
昔、中国で餅のような形をした銀貨を「餅銀(へいぎん)」といい、その大きなものを「大枚」といいました。
「大きな貨幣」の意味から、多額のお金を「大枚」と言うようになりました。
はたく(叩く)は、財布などを逆さにして中にあるお金を全部たたき出すことです。
そこから、「(お金を)使い尽くす」という意味でも用いられます。
7.断腸の思い(だんちょうのおもい)
「断腸の思い」とは、はらわたがちぎれるほどの悲しい思いのことです。
断腸の思いの「断腸」は、中国『世説新語 黜免』の故事に由来します。
中国、晋の武将 桓温が船で蜀へ行く途中、三峡を渡ったとき、従者が子猿を捕らえて船に乗せた。
母猿が連れ去られた子猿の後を岸伝いで追い、百里あまり行ったところで船が岸に近づくと、母猿は船に飛び移ったが、そのまま死んでしてしまった。
母猿の腹を割いてみると、腸(はらわた)がずたずたに断ち切れていた。
この故事から、腸がちぎれるほどの耐え難い悲しみを「断腸」や「断腸の思い」などと言うようになりました。
8.蒲公英/タンポポ(たんぽぽ)
「タンポポ」とは、草地に生えるキク科タンポポ属の多年草の総称です。春、花茎を伸ばし、黄色または白色の頭花をつけます。
タンポポの茎を鼓のような形に反り返らせる子供の遊びがあり、江戸時代には「タンポポ」を「ツヅミグサ(鼓草)」と呼んだことから、タンポポの語源は、鼓を叩く音を形容した「タン」「ポポ」という擬音語とする説が通説となっています。
そう言えば、牧野富太郎の生涯をモデルとしたNHK朝ドラ「らんまん」で、主人公の槙野万太郎がタンポポの名前の由来を草長屋の子供の説明していましたね。
古く、タンポポは「タナ(田菜)」と称しており、タンポポの「タン」は「タナ」で、「ポポ」は花後の綿を「穂々」とした説も考えられます。
中国では「タンポポ」を「ババチン(婆婆丁)」と呼びますが、古くは「チンポポ(丁婆婆)」と言い、「チンポポ」から「タンポポ」になったとする外来語説もあります。
「チンポポ」が「タンポポ」に変化することは十分に考えられますが、中国で「チンポポ」が使われていた時期と日本で「タンポポ」と呼ばれるようになった時期に隔たりがあり、この説は採用し難いものです。
漢字で「蒲公英」と表記するのは、漢方でタンポポを開花前に採って乾燥させたものを「蒲公英(ホコウエイ)」と呼ぶことに由来します。
「蒲公英」は春の季語で、次のような俳句があります。
・たんぽぽや 折ゝさます 蝶の夢(加賀千代女)
・馬借りて 蒲公英多き 野を過る(正岡子規)
・蒲公英に 春光蒸すが 如きかな(高浜虚子)
・蒲公英や 懶惰の朝の 裾さむし(石田波郷)