日本語の面白い語源・由来(た-⑭)七夕・玉の輿に乗る・鱈腹・大切・凧・駄々をこねる・たわけ者・ダフ屋

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七夕祭

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.七夕(たなばた)

七夕

七夕」とは、7月7日の夜、天の川に隔てられた彦星と織姫が、年に一度だけ会うという伝説にちなむ年中行事です。「五節句」の一つ。

七夕の行事は、中国から伝来し奈良時代に広まった「牽牛星(けんぎゅうせい)」と「織女星(しょくじょ)」の伝説と、手芸や芸能の上達を祈願する中国の習俗「乞巧奠(きつこうでん)」が結びつけられ、日本固有の行事となったものです。

七夕は五節句のひとつとして、宮中では「しちせき」と呼ばれていましたが、のちに「たなばた」と呼ばれるようになりました。

七夕が「たなばた」と呼ばれるようになった由来は、織女の伝説を元にした語源説で、「棚機つ女(たなばたつめ)」の下略(「つ」は「の」の意味)とする説が一般的です。

しかし、古くから農村地域では、豊作を祈り種を撒く「種播祭り(たなばたまつり)」が存在しているため、宮中で行われた「しちせき」が民間に広まった時に混同され、「たなばた」と呼ばれるようになったとも考えられています。

「七夕」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・七夕や 秋を定むる 初めの夜(松尾芭蕉

・七夕や 賀茂川わたる 牛車(服部嵐雪)

・恋さまざま 願ひの糸も 白きより(与謝蕪村

・うれしさや 七夕竹の 中を行く(正岡子規

2.玉の輿に乗る(たまのこしにのる)

玉の輿

玉の輿に乗る」とは、女性が高い身分の人やお金持ちの妻となり、富貴の身分になることです。

「玉」は、美しいものの総称で、古くは宝石も意味しました。「輿」は、貴人を乗せて人を運ぶ乗り物です。

そこから、貴人の乗る美しい立派な輿を「玉の輿」と言うようになりました。
貴人のところへ嫁入りする際には、そのような玉の輿に乗ることから、身分の低い女性が高い身分の人と結婚することを「玉の輿に乗る」と言うようになりました。

徳川綱吉の生母 桂昌院は京の八百屋に生まれましたが、家光の側室となり豪華な輿に乗って大奥に入ったことから、「玉の輿」は桂昌院の名「お玉」に由来するという説もあります。

しかし、名前と出世した経緯から「玉の輿」の代名詞とされているだけで、桂昌院が玉の輿の語源ではありません。

この言葉から、現代では、男性が裕福な女性と結婚することを「逆玉の輿に乗る」や「逆玉」などとも言うようになりました。

3.鱈腹(たらふく)

たらふく

たらふく」とは、腹いっぱいのことです。

たらふくの語源は、「足りる」や「足る」など、「十分になる」意味の動詞「足らふ(たらふ)」に、副詞語尾の「く」が付いたものとされます。

飲食物を腹いっぱいに摂取する意味の「足らひ脹るる(たらひふくるる)」が転じたとする説もありますが、江戸中期には、たらふくが「飽き足りるほど」の意味で用いられ、飲食物に限定されていない例があります。

漢字で「鱈腹」と書くことから、魚のタラの腹部が膨れていることや、タラが大変な大食漢であることに由来すると言われることが多いですが、「鱈腹」は当て字です。

当て字に「鱈腹」が使われた由来としては、「タラの腹」が関係している可能性はありますが、たらふくの語源を「タラの腹」とするのは間違いです。

また、「鱈」の漢字は「でたらめ」や「やたら」にも当て字として使われ、それらの当て字には意味がないため、「鱈腹」も魚のタラと全く関係なく、音から当て字された可能性もあります。

4.大切(たいせつ)

大切

大切」とは、重要なことです。大事。

大切は「大いに迫る(切る)」「切迫する」の意味を漢字表記し、音読みさせた和製漢語です。

「緊急を要するさま」の意味から、平安末期には「肝要なさま」の意味で「大切」が用いられました。

中世には「かけがえのないもの」の意味から、「心から愛する」意味としても使われるようになり、1603年『日葡辞書』では「大切」が「愛」と訳されています。

5.凧/紙凧(たこ)

凧

」とは、竹などの骨組みに紙を張り、糸をつけ、それを引きながら風を利用し、空高く揚げるものです。

凧を「タコ」と呼ぶのは関東方言で、関西方言では「イカ」と呼ばれ、18世紀後半の方言集『物類称呼』には「イカノボリ」の例も見られます。

凧が「タコ」や「イカ」と呼ばれ始めた由来は、紙の尾を垂らして揚がる姿が、「蛸(タコ)や「烏賊(イカ)」に似ていることからと考えられます。

中国では凧が漢代から「紙鳶(しえん)」として用いられ、平安時代初頭に日本へ伝来しました。

現代でも「凧」が「紙鳶」と表記されることもあり、938年成立の『和名抄』には「紙老鴟(しらうし)」としてあげられています。

「鳶」や「鴟」は、鳥の「トビ(トンビ)」のことで、紙製のトビを意味します。

「タコ」の呼称が出現するのは、江戸時代以降のことです。

漢字の「凧」は国字で、風と巾(布の意)の合字です。

「凧」「いかのぼり」は春の季語で、次のような俳句があります。

・山路来て 向ふ城下や 凧の数(炭太祇)

・凧だいた なりですやすや 寝たりけり(小林一茶

・いかのぼり 東寺八坂の 塔の間(蝶夢)

・夕ぐれの ものうき雲や いかのぼり(椎本才麿)

6.駄々をこねる(だだをこねる)

駄々をこねる

駄々をこねる」とは、子供が親などに甘えて、わがままを言ったり、すねたりすることです。

駄々をこねるの「駄々(駄駄)」は当て字で、悔しがって地を激しく踏む「地団駄(じだんだ)」から「だだ」になったとする説と、「いやだ、いやだ」からとする説があります。

「駄駄を言う」の表現や、「捏ねる(こねる)」には無理を言って相手を困らす意味もあり、「いやだ…」からとも考えられますが、「地団駄」の説が有力とされています。

ダダイスムを奉ずる人「ダダイスト」を略して「ダダ」と言うため、「ダダイスト」を語源とする説もありますが俗説です。

7.たわけ者/戯け者(たわけもの)

たわけ者

たわけ者」とは、馬鹿者、愚か者のことです。

たわけ者の「たわけ」は、「ばかげたことをする」「ふざける」などを意味する動詞「戯く(たわく)」の連用形が名詞となった「戯け」です。
そのため、漢字では「戯け者」と書きます。

たわけ者には「田分け」を語源とする説が、実しやかに言い伝えられています。
その田分けの説は、遺産相続の際、子供の人数で田畑を分けると、孫の代、ひ孫の代へ受け継がれていくうちに、それぞれの持つ面積が狭くなる。
すると、少量の収穫となり、いずれ家系は衰退するため、そのような愚かなことをする者を馬鹿にして、「田分け者(たわけ者)」と呼んだというものです。
「戯け」という言葉を調べることなく、このような俗説を信じて言い伝えている人が、たわけ者です。

8.ダフ屋(だふや)

ダフ屋

ダフ屋」とは、コンサートや野球場・競技場などのチケットを買い込み、チケットを持っていない人に高く売る不正取引業者のことです。

ダフ屋の「ダフ」は、チケットを意味する「札(ふだ)」を反転させた闇屋の隠語です。

ダフ屋という商売は、第二次世界大戦直後から始まりましたが、「ダフ」という言葉自体は、倒語が流行した江戸時代に生まれたと考えられています。

余った券の意味で「だぶった券」を語源とする説もありますが、「ダブる(だぶる)」は英語「double(ダブル)」の動詞化で、「ダフ」の語より新しい言葉であり、あくまでも俗説です。