日本語の面白い語源・由来(に-①)日光黄菅・韮・入道雲・苦い・俄・ニッカボッカ・虹・日本

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ニッコウキスゲ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.日光黄菅/ニッコウキスゲ(にっこうきすげ)

ニッコウキスゲ

ニッコウキスゲ」とは、「ススキノキ科の多年草」です。6~8月、茎頂に橙黄色の6弁花が数個開きます。

ニッコウキスゲは、栃木県の日光に群生地があり、花は黄色を帯び、葉姿がスゲの仲間のカサスゲ(笠菅)に似ることからの名です。

ただし、日光の群生が有名なことから付いた名であり、この地方の固有種ではなく、本州中部以北に広く分布します。

江戸時代には「ゼンテイカ(禅庭花)」や「セッテイカ(節庭花)」と呼ばれていましたが、1896年に牧野富太郎博士が、前二者とあわせて「ニッコウキスゲ(日光黄菅)」を和名として発表して以降、「ニッコウキスゲ」の名で呼ばれることの方が多くなりました。

2.韮/韭/ニラ(にら)

にらにらの花

にら

「ニラ」とは、「ヒガンバナ科の多年草」です。葉を食用にします。中国西部原産といわれますが明らかではありません。

ニラの語源には「ニホヒキラフ(香嫌)」の略説がありますが、『古事記』では「加美良(カミラ)」、『万葉集』に「久々美良(ククミラ)」、『正倉院文書』に「彌良(ミラ)」とあり、「ニラ」が見られるのは平安時代後期からです。

そのため、「ニラ」は「ミラ」の転と考えて間違いないでしょう。

葉が細長く平たいことから、ミラは「メヒラ(芽平)」の意味で、「カミラ」の「カ」や「ククミラ」の「クク」は「香り」の意味と思われます。

元々の漢字は「韭」で、ニラの生え揃った形を表した象形文字です。それに草冠をつけたのが「韮」です。

3.入道雲(にゅうどうぐも)

入道雲

入道雲」とは、「雄大な積雲や積乱雲の俗称」です。

入道雲の由来には、むくむくと盛り上がった雲の頂を坊主に見立てた説。
坊主頭の化け物に見立てた説。
大男の立ちはだかる姿に似ていることから名付けられた説があります。

入道は、悟りの境に入ることの意味から、仏門に入り髪を剃って僧や尼になること。さらに、坊主頭の人や、坊主頭の化け物も意味するようになった言葉です。
単純に解釈すれば、入道雲は坊主頭や化け物に見立てた説が考えられます。

しかし、古典の世界では、藤原道長や平清盛が「入道」と呼ばれており、中世後期頃から、入道は道長や清盛像が背景となって「巨大で強そうなもの」を連想させる言葉となっています。
そのため、入道雲は「大男の立ちはだかる姿」の説が有力です。

「巨大で強そうなもの」のイメージから「入道」の名が付いたものには、ゴンドウクジラの「入道海豚」、ヒキガエルの「入道蛙」、巨大タコの「入道蛸」、巨大イカの「入道烏賊」などもあります。

大男の説と考えられるもう一つの理由として、入道雲の別名の存在があります。
入道雲の地方名には「坊主雲」や「蛸坊主」など、坊主頭を連想させる名前もありますが、関東の「坂東太郎」や関西の「但馬太郎」など、地名に「太郎」を添えた名前が多くあります。

「太郎」は最も大きなものに対して敬称として添えられる語で、全国各地に異なる「◯◯太郎」が多く存在するので、入道雲も似た命名の仕方と考えるのが自然です。

「入道雲」「雲の峰」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・入道雲 シロップかけて 食べたいな(黒田まち子)

・ひらひらと あぐる扇や 雲の峰(松尾芭蕉

・雲の峰 きのふに似たる けふもあり(加舎白雄)

・雲の峰 雷を封じて 聳えけり(夏目漱石

4.苦い(にがい)

苦い

苦い」とは、「舌を刺激し、不快な味である。比喩的に、不愉快で耐え難い。つらく苦しい」ことです。

苦いは、味覚に関して不快であるところから、つらく苦しいさま、耐え難いさまも意味するようになりました。

逃げ出したくなるような味の意味から、「にぐ(逃)」の形容詞形と考えられます。

5.俄(にわか)

にわか雨

にわか」とは、「物事が急に起きたり、変化したりするさま。一時的であるさま」のことです。

にわかの語源には、「いまか(息間所)」の意味。急なことは一、二と分かずの意味から。「には(にわ)」は「にひ(新)」から分化した語で、「か」は形容動詞をつくる接尾語などの説があります。

にわかの「か」は形容動詞をつくる接尾語のため、「息間所」や「二分かず」の説は考えられませんが、それだけで「にひ(新)」から分化したとも言い切れません。

「にわかに」「慌ただしく」を意味する副詞に「にわしく(にはしく)」があるため、「にわか」と語根を同じくする形容詞「にはし」があったとも考えられていますが、それ以上のことは分からず、語源は未詳です。

インターネット上には、江戸中期から明治にかけて流行した即興芝居の「にわか狂言」の下略を語源とするものも見られますが、「にわか」は平安時代には使われていた古い言葉なので、この説は論外です。

にわかは、物事が急に起こるさまから、常ではなく一時的であるさまを表すようになり、「にわか狂言」や「にわか仕立て」など名詞の上に付いて、急にその状態になることを表すようになりました。

6.ニッカボッカ/ニッカポッカ

ニッカボッカニッカボッカ

ニッカボッカ」とは、「膝の下でくくるゆったりとしたズボン」です。鳶職の作業着として知られます。

ニッカボッカは、英語「knickerbockers」からの外来語です。

「knickerbockers」は、『ニューヨークの歴史』の著者ワシントン・アーヴィングのペンネーム「Diedrich Knickerbocker(ディートリヒ・ニッカーボッカー)」に由来します。

この本には、ニューヨークに移民したオランダ人がはいていた半ズボンの挿絵があり、その半ズボンが「knickerbockers(ニッカーボッカーズ)」と呼ばれるようになりました。

このズボンは裾が邪魔にならないため、野球・ゴルフ・乗馬などのスポーツウェアとして用いられ、日本でも当初はその用途でしたが、次第に鳶職の作業着として用いられることが多くなりました。

「knickerbockers」なので本来は「ニッカーボッカーズ」が正しいですが、「ニッカポッカ」と呼ぶことが多く、「ニッカー」や「ニッカズボン」など派生した呼び名も多くあります。

「ニッカーボッカーズ」が徐々に「ニッカポッカ」に変化したと言うよりも、昔から「ニッカポッカ」を中心に様々な名前で呼ばれていたようで、文献で見られる一番古い使用例は、サトウハチロー『浅草』(1931年)にある「定九郎はニッカポッカをはかして、勘平もゴルフパンツでどうだらう」です。

井伏鱒二の『多甚古村補遺』(1940年)では「ニッカボッカ」、井上靖の『闘牛』(1949年)では「ニッカーボッカー」の例が見られます。

7.虹(にじ)

虹

」とは、「雨あがりなどに、太陽とは反対側の空に見える円弧状の7色の帯」のことです。

漢字の「虹」が虫偏なのは、古代中国で、竜になる大蛇が大空を貫く時に作られるものが「にじ」と考えられていたことに由来します。

虫偏は昆虫を表した字ではなく、元々はヘビの形を描いたもので、その虫に「貫く」を意味する「工」の字で「虹」の漢字が作られました。

「にじ」の漢字には雄と雌があり、雄は「虹」で明るい主虹、雌が「霓(蜺)」で外側の薄い副虹を表します。
この二字を合わせた「虹霓・虹蜺(こうげい)」も「にじ」を意味します。

和語の「にじ」の語源は不明ですが、古くは虹とヘビが同じ語で表されていたか、近い音で表現されていたと考えられています。

水中に棲む長い生き物は、「うなぎ」や「あなご」など「nag」の音で表されているものが多く、「ナギ」はヘビ類の総称であったと考えられています。

『万葉集』には、虹を「ノジ」と表した例があります。
琉球方言では、ヘビを「ナギ」や「ナガ」、虹を「ノギ」や「ナーガ」と呼んでいます。

未詳な部分も多く、これだけで断定できるものではありませんが、日本でも古くから、ヘビが息を吹いたものが虹になるという考えがあったため、ヘビに関する語が「にじ」の語源となっていることは十分に考えられます。

その他、「にじ」の「に」は赤を意味する「丹(ニ)」、「じ」が「白(シ)」か「筋(スヂ)の反」とする説もあります。

「虹」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・虹たるる もとや樗(おうち)の 木の間より(黒柳召波)

・わきもこや 虹を見る眉 あきらかに(日野草城

・虹に謝す 妻よりほかに 女知らず(中村草田男

・虹立ちし 富士山麓に 我等あり(星野立子)

8.日本(にほん/にっぽん)

日本

日本」とは、「アジア大陸の東方に位置し、北海道・本州・四国・九州および周辺諸島からなる島国」です。首都は東京。

日本は中国大陸から見て東にあり、「日の昇る本の国」の意味で「日の本(ひのもと)」に由来する説が一般的です。

聖徳太子

聖徳太子は隋に対し、倭国が朝鮮三国とは異なり、隋に朝貢はするけれども官職や爵位を授けられて臣下となる道は取らないという独自の立場をアピールしました。倭国王を「日出処の天子」と称し、「日没処の天子」たる隋の皇帝と、いわば対等の関係にあるとしたのはそのためです。

その他、古い国号の「ヤマト」の「ヤマ」の枕詞の「日の本の」からとする説や、和語「クサカ」の漢字による表音的表記「曰下」を「日下」と誤り、それを好字の「日本」に書き換えたとする説もあります。

日本の読みには「ニホン」と「ニッポン」がありますが、どちらが正式な発音という決まりはなく、どちらも正しいとされています。

紙幣や切手などには「NIPPON」と表記されているように、対外的には多く「ニッポン」が使われますが、一般には「ニホン」が多く使われています。

古くは漢音で「ジッポン」と発音したり、平安時代には「ひのもと」とも和訓されていたようです。

「ニホン」と「ニッポン」では、呉音読みした「ニッポン」の方が古く、やがて促音が脱落した「ニホン」の発音が生まれました。

「ニホン」が生まれた背景には、ひらがなが作られた当初は促音や半濁音の表記がなく、「にっぽん」の促音「っ」や半濁音「ぽ」が表記できなかったため、「にほん」と表記されたからというのが通説となっています。