日本語の面白い語源・由来(に-④)鰊・鶏・ニート・二の腕・面皰・二の句が継げない・二の舞・人間ドック

フォローする



鰊

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鰊/鯡(にしん)

鰊蕎麦

「鰊」と言えば、私はまず「鰊蕎麦(にしんそば)」(上の写真)を思い浮かべます。

ニシン」とは、「ニシン目ニシン科の魚」です。体は細長くマイワシに似ていますが、体側に黒点がありません。

ニシンの語源は、身を二つに裂いて食用にすることから、「二身」の説が有力です。
同様の説では、二つに身を割ることから「妊娠」を語源とする説もあります。
その他、両親が揃っている者は必ず食べなければならない魚だったため、「両親」つまり「二親」から「ニシン」になったとする説。
アイヌ語で「ニシン」を「ヌーシィ」といったことから、変化して「ニシン」になったとする説もありますが有力とされていません。

また、日本海沿岸で獲れる魚を「西の海の魚」といい、東北地方の訛りで「ニシンウミ」となり、「ニシン」になったとする説があります。

しかし、ニシンはかつて北海道近海や三陸沖で多獲された魚であるため、「日本海沿岸で獲れる魚」「西の海の魚」を語源とすることは不自然です。

第二次世界大戦前、北海道の日本海沿岸でニシン漁が隆盛をきわめた頃、小樽ではニシンで大儲けをした網元たちが競って豪壮な「鰊御殿(にしんごてん)」を建てたことでも有名です。

「鰊」は春の季語で、次のような俳句があります。

・三田尻の 塩を切りけり 初鰊(豊水)

・鰊御殿 天井高き 目借時(館岡沙緻)

・紅つけて 朝市の女 鰊売る(八巻絹子)

・銀色の 鰊を買いに 旅芸人(筑網敦子)

2.鶏(にわとり)

鶏

ニワトリ」とは、「キジ目キジ科の鳥で、世界中で広く飼育される家禽(かきん)」です。

ニワトリの語源は、「庭の鳥」「庭にいる鳥」の意味の「ニハツトリ」で、「ニハツトリ」の連帯助詞「ツ」が落ちて変化した語です。

「ニハツトリ」に対する野生の鳥は、「ノツトリ(野つ鳥)」と呼ばれました。

ニワトリを表す言葉には、「家にいる鳥」を意味する「イヘツトリ」もありましたが、『万葉集』には「ニワトリ」の古名「カケ(鶏)」を意味する言葉として、また『古事記』にも「カケ」の枕詞として「ニハツトリ」が用いられているように、「ニハツトリ」の方が多く用いられたため、「イヘツトリ」は消えていったと考えられます。

古名「カケ」は、その鳴き声から名付けられたとされ、『神楽酒殿歌』に「鶏はかけろと鳴きぬなり」の例が見られます。

漢字の「鶏」は、紐で繋いで飼う鳥を意味する会意文字説と、「ケイケイ」と鳴く声を真似た擬声語説があります。

ニワトリは、紀元前300年の弥生時代には伝来しており、埴輪も多く見つかっています。
また、『倭名類聚鈔』には「六蓄、牛馬羊犬鶏豕也(豕は豚)」とあり、古くからニワトリは家畜として大切にされていたことがわかります。

3.ニート/neet

ニート

ニート」とは、「学校にも行かず、仕事に就こうともせず、職業訓練も受けない若者」のことです。

ニートは、「Not in Employment, Education or Training」の略です。

1990年代末にイギリスの労働政策に用いられた語で、日本では2000年代初頭から「ニート」の語が使われるようになり、失業者でもフリーターでもない人を指すようになりました。

厚生労働省では、仕事に就いておらず、家事も通学もしていない15~34歳までの人をニートと定義しています。

35歳以上はニートに該当しないため、年齢以外の項目に当てはまり35歳以上の人は「中年無業者」、40代から50代の人は「中年ニート」や「高齢ニート」とも呼ばれます。

4.二の腕(にのうで)

二の腕

二の腕」とは、「肩と肘との間の部分」のことです。

二の腕の「二」は二番目の意味で、古くは「一の腕」と呼ばれる部分もありました。
1603年刊の『日葡辞書』には、二の腕が「肘と手首との間の腕」とあり、一の腕は「肩から肘までの腕」とされています。

そのことから、「一の腕」だったものが誤用で「二の腕」になったと考えられています。

しかし、「腕」は元々「肘から手首」までを指した言葉なので、その場所を「二の腕」と呼ぶとは考え難いものです。

また、普通は先端から順に数えるので、肩から順に数えるのは不自然です。このような例は『日葡辞書』以外に見つかりません。

これらのことから、指す場所が逆転してた訳ではなく、『日葡辞書』の誤りと考えられます。

古くは、肘から手首までを「うで」、肩から肘までを「かいな」と区別しており、元々の「うで」に対して「かいな」は二番目の腕なので「二の腕」と呼ぶようになったとするのが妥当です。

5.面皰(にきび)

にきび

にきび」とは、「主に思春期や青年期に、顔・胸・背中などの毛穴にできる吹き出物」のことです。

にきびの語源には、皮膚にできる赤いキビの実のようなものなので、赤い色を意味する「丹(に)」に「黍(きび・古くは「きみ」)」で「にきび」になったとする説や、「肉黍(にくきび・にくきみ)」が転じて「にきび」になったとする説。
柔らかいものを意味する「和(にく)」からや、「肉(にく)」を語源とするなど諸説あります。

古くは「にきみ」と言い、「にきみ」から「にきび」に転じたようですが、上記の説も元は「み」と発音されていた語ばかりのため、特定は困難です。

6.二の句が継げない(にのくがつげない)

二の句が継げぬ

二の句が継げない」とは、「驚いたり、あきれたりして次の言葉が出ないこと」です。

二の句が継げないの「二の句」とは、雅楽の朗詠で三段階あるうちの二段目の句のこと。
一段目は低音域、二段目は高音域、三段目は中音域で、二の句は高音域であす。

高音のまま詠じ続けて、息切れしやすく難しいことから、声に出せないさまを「二の句が継げない」と言うようになりました。

朗詠の用語としては古くから見られますが、「二の句が継げない」という表現は江戸時代以前の文献に例が見られず、有島武郎の『或る女』が初ではないかといわれます。

7.二の舞(にのまい)

二の舞

二の舞」とは、「人の後に出てその真似をすること。特に、前の人の失敗を繰り返すこと」です。「二の舞を演じる」「二の舞を踏む」と用います。

二の舞は、蔵面をつけて舞う雅楽のひとつ「安摩(あま)」の答舞に由来します。
安摩の舞の後に、「咲面(わらいめん)」と「腫面(はれめん)」をつけた二人が、わざと失敗しながら安摩の舞を真似て演じる滑稽な舞のことを「二の舞」と言ったことから、人と同じ失敗をもう一度繰り返すことを意味するようになりました。

舞に由来する言葉なので、かつては「二の舞を演じる」が正しく、「二の舞を踏む」は「二の足を踏む」と混同したもので誤用とされてきました。

しかし、経験する意味で「初舞台を踏む」や「場数を踏む」など「踏む」が用いられ、踊りは床を踏んで調子を合わせることから、誤用として扱うことが間違いとも言われます。

また、『大言海』の「案摩」の解説では「二舞(ニノマヒ)を踏む」とあるため、元々は「二の舞を踏む」と言っていたものが、舞からの類推で「二の舞を演じる」に転じたとの見方もあります。

このようなことから、現在では「二の舞を踏む」は誤用とされず、多くの辞書では誤用の解説を載せなくなっています。

なお、「二の舞を繰り返す」は、繰り返しの意味が重複してしまうため、「繰り返す」を用いるのは間違いです。

8.人間ドック(にんげんどっく)

人間ドック

人間ドック」とは、「外来や短期間入院で行う精密な健康診断のこと」です。

人間ドックの「ドック」は、船の修理や建造用の施設「dock(ドック)」のことです。

ドックが次の航海で事故が起こらないよう、完全な点検・修理をするために入る場所であることから、人間を船に見立て「人間ドック」と名付けられたといわれます。

なお「人間ドッグ」と言うのは誤りで、犬とは一切関係ありません。

人間ドックは、国立東京第一病院(現在の国立国際医療センター)と聖路加国際病院で、昭和29年(1954年)から始められました。

当初は「短期入院精密身体検査」と呼ばれていましたが、同年、読売新聞の特集ページに「人間ドック」と書かれたものが一般に受け入れられ、この呼称が定着していきました。