日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.猫柳(ねこやなぎ)
「ネコヤナギ」とは、「川辺などに生えるヤナギ科の落葉低木」です。カワヤナギ。エノコロヤナギ。
ネコヤナギは、早春、葉よりも先に人目につく大きな花穂をつけます。
この花穂は銀白色で柔らかく、猫のしっぽのように見えることから、「猫の尾をした柳」の意味で「ネコヤナギ」と名付けられました。
「猫柳」は春の季語で、次のような俳句があります。
・山里の 雛の花は 猫柳(高浜虚子)
・あたたかや 皮ぬぎ捨てし 猫柳(杉田久女)
・折りかけし 枝もありけり 猫柳(鈴木花蓑)
・朝市や 藁もて括り 猫柳(長谷川櫂)
2.懇ろ(ねんごろ)
「懇ろ」とは、「心がこもっているさま。親身なさま。親しいさま。親密になること。男女が深い仲になること。男女の関係をもつこと」です。
懇ろは、上代には「ねもころ」と言い、「ねもころ」が変化して「ねむころ」となり、更に「ねんごろ」へと変化しました。
「ねもころ」の語構成は、「ね(根)」+「もころ(如)」か、「ね(根)」+「も(助詞)」+「ころ(凝)」と考えられています。
共に「根の如く密に絡み合う」といった意味になりますが、前者は「根の如く」、後者は「密に絡み合う」が重点となっており、懇ろの意味からすれば、後者の「根も凝」が妥当です。
また、「ころ(凝)」が「心」の語源と考えられている点でも、懇ろの語源は「根も凝」と考えられます。
懇ろは心をこめて思うさまを示す語でしたが、転じて、親しいさまも表すようになり、親密になることや、男女が深い仲になることをも言うようになりました。
3.合歓木(ねむのき)
「ネムノキ」とは、「マメ科の落葉高木」です。葉は細かい羽状複葉。山野や河原に自生し、庭木ともされます。
ネムノキは、夜になると小葉が閉じて垂れ下がり、眠っているように見えることに由来する名です。
古くは、「ねむる(眠る)」が「ねぶる」と第二音節が「ぶ」であったように、ネムノキも「ネブ(ネブノキ)」「ネブリ(ネブリノキ)」と呼ばれていました。
中古末から中世にかけて第二音節が「む」に変化し、「ネム」「ネムノキ」と呼ばれるようになりました。
ネムノキの漢字「合歓木」の「合歓(ごうかん)」は、男女が共寝すること、喜びを共にすることを表す言葉です。
「合歓」が用いられた理由は、葉がピッタリとくっつき、男女が共寝する姿に似るためか、不機嫌になった夫にネムの花を酒に入れて飲ませると機嫌が良くなるという中国の伝説から、「家族が仲良くなる」「喜びを共にする」という意味で「合歓」が用いられたと考えられます。
「合歓の花」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・象潟や 雨に西施が ねぶの花(松尾芭蕉)
・雨の日や まだきにくれて ねむの花(与謝蕪村)
・合歓咲くや 河水を汲む 桔槹(はねつるべ)(河東碧梧桐)
・合歓咲くや 此処より飛騨の 馬糞道(前田普羅)
4.鼠(ねずみ)
「ネズミ」とは、「ネズミ目ネズミ科の哺乳類の総称」です。
ネズミの語源には、「あなずみ(穴住み・穴棲み)」の音変化や「根住み・根棲み」の意味など、住む場所を語源とする説が多いですが、棲みかは穴や根元だけではないため考え難い説です。
根之堅州国(黄泉の国のこと)を訪れた大国主命が、危ういところをネズミに助けてもらったという話が『古事記』にあり、上代では「根棲み」と考えられていたとは考慮すべきです。
しかし、ここでの「根」は「根元」ではなく「陰所」を表していることから、棲みかを語源とするならば、「ね(隠れた所)」+「ずみ(棲み)」とすべきです。
ネズミの語源で有力な説は「ぬすみ(盗み)」の転で、人間の周囲にいて食糧を盗む生き物であり、古くは倉庫に鼠返しを立てて侵入を防いでいたことからも考えられます。
盗みに関連する説では、ネズミの多くが夜行性で人間が寝ている間に食料を盗むことから、「ねぬすみ(寝盗み)」とする説もあります。
「盗み」が語源であることを証明するものではありませんが、英語の「mouse」も「盗み」に由来します。
5.猫も杓子も(ねこもしゃくしも)
「猫も杓子も」とは、「誰も彼も。なにもかも」ということです。
猫も杓子もは、寛文8年(1668年)の『一休咄』に「生まれては死ぬるなりけりおしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も」とあり、それ以前には使われていたことがわかりますが、正確な語源はわかっておらず、以下のとおり諸説あります。
①猫は「神主」を表す「禰子(ねこ)」、杓子は「僧侶」を表す「釈氏・釈子(しゃくし)」で、「禰子も釈氏も(神主も僧侶も)」が変化して「猫も杓子も」になったとする説。
②猫は「女子(めこ)」、杓子は「弱子(じゃくし)」で、「女子も弱子も(女も子供も)」が変化して「猫も杓子も」になったとする説。
③猫は「寝子(ねこ)」、杓子は「赤子(せきし)」で、「寝子も赤子も(寝る子も赤ん坊も)」が変化して「猫も杓子も」になったとする説。
④杓子は「しゃもじ」のことで、主婦が使うものであることから「主婦」を表し、「猫も主婦も家族総出で」という意味から出たとする説。
⑤猫はどこにでもいる動物、杓子も毎日使う道具であることから、「ありふれたもの」の意味から出たとする説。
猫も杓子もは『一休咄』に出てくる言葉なので、①の説が有力とされることもありますが、それだけでは根拠となりません。
①の語源説も含め、こじつけと思える説ばかりですが、口伝えで広まったとすれば、音変化や漢字の表記が変化することは考えられます。
6.根掘り葉掘り(ねほりはほり)
「根掘り葉掘り」とは、「徹底的に。しつこく」ということです。一般に「根掘り葉掘り聞く」の形で、細かい点までしつこく聞く意味として用います。
根掘り葉掘りの「根掘り」は、根元から丁寧に全部掘り起こすことで、「徹底的に」「しつこく」の意味となります。
「葉を掘る」という不思議な意味になる言葉の「葉掘り」は、「根掘り」に語調を合わせたものです。
「根掘り」に語調合わせの「葉掘り」で、「根元から枝葉に至る隅々まで」といった意味を表します。
7.螺子/ネジ(ねじ)
「ネジ」とは、「円筒や円錐の面に沿って螺旋状(らせんじょう)の溝が刻まれた、物を締めつけるための機械部品」です。ぜんまいを巻く装置。また、そのぜんまい。
ネジは上一段動詞「捩る・捻る(ねじる)」、または上二段動詞「捩づ・捻づ(ねず)」の連用形が名詞化した語です。
漢字の「螺子」や「螺旋」はネジが螺旋状であることから。「捩子」や「捻子」の漢字は「捩る」「捻る」からです。