日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ノスタルジー/nostalgie
「大分むぎ焼酎二階堂」のテレビCMは、ノスタルジーを誘うものが多いですね。
「ノスタルジー」とは、「異郷にいて故郷を懐かしむ気持ち。また、遠い過去を懐かしむ気持ち」のことです。
ノスタルジーは、フランス語「nostalgie」からの外来語で、英語では「nostalgia(ノスタルジア)」と言い、同源です。
スイスのバーゼル大学の医学者ヨハネス・ホーファーが、ギリシャ語の「nostos(帰郷)」と「algos(痛み)」を組み合わせた造語で、1688年に論文で発表されました。
彼は、遠い異郷に住んでいる患者のパターンから、帰郷を願う気持ちと、それが叶わないかもしれないという恐怖を持ち合わせ、致命的な病気になることに気づきました。
この現象を反映するために造語した医学用語が「ノスタルジー(ノスタルジア)」で、元々は「ホームシック」に近い言葉です。
2.凌霄花(のうぜんかずら)
「ノウゼンカズラ」とは、「気根を出し、他の木や壁などに付着してよじ登る中国原産のノウゼンカズラ科の蔓性落葉樹」です。夏から秋にかけ、橙色や赤色の花が開きます。
ノウゼンカズラは、古く中国から日本に渡来した植物で、名前は漢名の「凌霄花」に由来します。
凌は「凌ぐ」「上に出る」、霄は「遥かな空」「天」で、凌霄花は「天にのぼる花」を意味し、高い所によじ登る習性からの命名です。
「凌霄」の読みは「リョウセウ(リョウショウ)」ですが、日本語にはラ行音で始まる言葉がなかったことから、 R音とN音の交替によって「ノウセウ(ノウショウ)」となり、転じて「ノウゼン」となりました。
ノウゼンカズラの「カズラ」は、「テイカカズラ」や「スイカズラ」などと同じ「カズラ(葛)」で、つる草の総称です。
「凌霄花」「凌霄」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・凌霄花 路地奥染めし 明るさよ(南部静季)
・のうぜんや 真白き函の 地震計(日野草城)
・家毎に 凌霄咲ける 温泉かな(正岡子規)
・ほろほろと 落ちて哀れの 凌霄花(門田窓城)
3.ノルディックスキー
「ノルディックスキー(複合)」は、荻原健司選手の大活躍で、我々日本人にも身近なスキー競技となりました。最近では渡部暁斗選手が健闘していますね。
「ノルディックスキー」とは、「スキー競技のカテゴリーのひとつ」です。主要国際大会では、クロスカントリー(距離)、ジャンプ(飛躍)、これら2種目を合わせたコンバインド(ノルディック複合)の3競技が実施されます。
ノルディックスキーの「ノルディック(Nordic)」は、「北欧の」「北欧人の」を意味する英語です。
このスキーの型は、ノルウェーなどの北欧で誕生・発展したもので、1920年代後半から盛んになりはじめた「アルペンスキー」と区別して、こう呼ぶようになりました。
英語の「Nordic」はフランス語の「nordique」に由来し、「nord」は「北」を意味します。
4.鋸(のこぎり)
「のこぎり」とは、「木材や石材、金属などを切るのに用いる工具」です。薄い鋼板のふちにギザギザの歯が刻みつけてあります。のこ。
『新撰字鏡』に「乃保支利」、『和名抄』に「能保岐利」とあるように、古く、のこぎりは「のほぎり」と呼ばれていました。
『大般若経字抄』や『名義抄』には既に「のこぎり」の訓があることから、「のほぎり」が「のこぎり」に転じたのは平安後期頃と思われます。
「のほぎり」の「の」は、「刃」を表す「な」が母音交替したものです。
「な」が「刃」を表す言葉には、「片(かた)」+「刃(な)」の「刀(かたな)」があります。
「のほぎり」の「ほ」は「歯」の母音交替で、「ぎり」は「切り」です。
5.ノベル/novel
「ノベル」とは、「小説。特に、写実的な長編小説」のことです。
ノベルは、英語「novel」からの外来語です。
「novel」は、「new story(新しい物語・新しい話)」を意味するラテン語が語源で、「nov」には「新しい」という意味があります。
小説の「novel」と同じ綴りで、「新しい」「奇抜な」の意味を表す形容詞「novel」も「nov」から生じた語で、「新星」を意味する「nova」も「nov」に由来します。
6.暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
「暖簾に腕押し」とは、「手ごたえや張り合いがないことのたとえ」です。
暖簾に腕押しの語源には、二通りの解釈があります。
ひとつは、手ごたえがないたとえとして「のれんを腕(手)で押すようなもの」という、意味をそのまま解釈した一般的なもの。
もうひつは、「腕押し」とは「腕相撲」のことで、「のれんと腕相撲をするように張り合いがない」と解釈したものです。
「腕押し」を「腕相撲」の意味で用いた例は、『義経記』や『日葡辞書』に見られます。
しかし、暖簾に腕押しの「腕押し」が「腕相撲」を意味したと分かる例はなく、「腕押し」に「腕で押す」という「腕相撲」に近い意味もあるので断定が困難です。
ただし、「暖簾に腕相撲」ということわざが使われることもあります。
そのため、「暖簾と腕相撲をするようなもの」の意味が、暖簾に腕押しの語源となっている可能性は十分に考えられます。
7.海苔(のり)
「海苔」とは、「紅藻類・藍藻類・緑藻類の海藻で、水中の岩石上に生えるものの総称(狭義にはアマノリ類)。海藻を紙状に漉いて干した食品」です。
古く、海苔は粘り気を利用し、接着剤としても使われていたといわれます。
そのため、海苔は接着剤の「糊(のり)」と同源で、「ヌルヌル」や「ヌラヌラ」などが変化した語でしょう。
『大宝律令』には、29種類の海産物が租税として納められ、そのうち8種類が海藻で、海苔も含まれていたことが記されています。
『大宝律令』が施行された大宝2年1月1日を西暦換算すると702年2月6日になることから、国海苔貝類漁業協同組合連合会が2月6日を「海苔の日」と制定しています。
「海苔」は春の季語で、次のような俳句があります。
・衰ひや 歯に喰ひあてし 海苔の砂(松尾芭蕉)
・海苔の香も ゆかし有曾の 島廻り(立花北枝)
・嶋からの 文のしめりや 海苔の塩(蝶夢)
・海苔の香や 障子にうつる 僧二人(桜井梅室)
8.ノロウイルス/Norovirus
「ノロウイルス」とは、「食中毒や胃腸炎の原因となる感染力の強いウイルス」です。生ガキによる感染のほか、人の糞便や嘔吐物を経由した感染も見られます。
ノロウイルスは、1968年にアメリカ・オハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した胃腸炎から土地の名を冠し、1972年に「ノーウォークウイルス」と名付けられました。
その後、近縁の小型球形ウイルスが多数発見され、ノーウォークウイルスの様なウイルスの意味で、「ノーウォーク様(よう)ウイルス」と呼びました。
1977年に札幌で発見されたダビデの星型ウイルスは「サッポロウイルス」と名付けられ、同型のものを「サッポロ様ウイルス」と呼ぶようになりました。
しかし、単に「ノーウォークウイルス」や「サッポロウイルス」という場合、広義(様)と狭義で混乱を招く恐れがあるため、本来のノーウォークウイルスを「ノロウイルス」、サッポロウィルスは「サポウイルス」と定められました。