日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.はっけよい
「はっけよい」とは、「相撲で行司が動きの止まった両力士に対して発する掛け声」です。はっきょい。
はっけよいの「はっけ」は易占いの「八卦」のことで、「八卦良い」の意味とする説が一般には広まっています。
日本相撲協会では、「はっきょい」として「発気揚々」の意味と捉えています。
しかし、力士に対して動きを求めて発する掛け声なので、動詞の命令形と考えるのが自然です。
「はっ」が「ハヤ(早)」の転、「けよい・きょい」を「キホフ(競ふ)」の命令形「キホヘ」とし、「ハヤキホヘ(早く競いなさい)」が転じて「はっきょい」になり、更に転じて「はっけよい」になったとする説が妥当です。
2.ハロゲン/halogen
「ハロゲン」とは、「フッ素・塩素・臭素・ヨウ素・アスタチンなど周期表17族元素の総称」です。ハロゲン族元素。
ハロゲンは、英語「halogen」からの外来語です。
ギリシャ語で「塩」を意味する「háls」と、「生み出す」を意味する「genélss」(「作る」を意味する「gennao」とも)に由来します。
ハロゲンは金属元素と化合して塩化物を形成することから、「塩の素(もと)」の意味で、スウェーデンの科学者ベルツェリウスが命名しました。
3.バジル/basil
「バジル」とは、「インド原産のシソ科の一年草」です。香辛料としてイタリア料理に使用されます。
バジルは、英語「basil」からの外来語です。
「basil」は、「王らしい」を意味するラテン語「basilicum」に由来し、ギリシャ語で「王」を意味する「basileus」や、「王らしさ」を意味する「basilikon」と同系の語です。
高貴な香りがすることや、貴族が香料に用いたことから、王のような高貴な草という意味で名付けられたといわれます。
ラテン語がフランス語に入って「basile」となり、それが英語に入って「basil」となりました。
現在、フランス語では「basilic(バジリク)」と呼ばれ、日本で「バジリコ」と呼ぶのはイタリア語「Basilico」からです。
想像上の生物で「ヘビの王」と呼ばれる「バジリスク」が、フランス語では植物のバジルと同じ綴りの「basilic」で、ギリシャ語の「basileus」に由来するため、バジルの語源を「バジリスク」からとする説もあります。
しかし、同源というだけで直接関係するものではありません。
4.二十日鼠(はつかねずみ)
「ハツカネズミ」とは、「体長約8センチのネズミ目ネズミ科の哺乳類」です。尾も体長と同じくらい長いネズミです。
ハツカネズミの語源は、妊娠期間が20日程であるからとする説が通説となっているが定かではありません。
その他の説には、家ネズミの中でも、ハツカネズミはドブネズミやクマネズミなどに比べて体が小さく、生後20日程度の大きさしかないところからとする説。
同じく体が小さいところから、「わずか(僅か)ネズミ」が転じて「ハツカネズミ」になったもので、「二十日鼠」は当て字とする説。
小形でちょこまかと動き回るところから、「はしかい(捷い)ネズミ」の意味とする説。
ハツカネズミの古称「甘口鼠(あまくちねずみ)」の書き誤りと見誤りをし、「廿日鼠(はつかねずみ)」になったとする説があります。
5.八面六臂(はちめんろっぴ)
「八面六臂」とは、「多方面めざましい活躍をしたり、一人で何人分もの働きをすること」です。
八面六臂の「面」は「顔」、「臂」は「肘(ひじ)・腕」の意味です。
阿修羅など、三つの顔と六本の腕をもつ仏像を「三面六臂」といい、傑出した手腕や力量をもつたとえに使われます。
この「三面六臂」と、多方面を表す「八面」が合わさって生まれたた語が「八面六臂」です。
そのため、八面六臂の仏像は存在しません。
6.働く(はたらく)
「働く」とは、「仕事をする。労働する。機能する。活動する」ことです。
働くの語源は、「はためく」と同様に「はた」という擬態語の動詞化と考えられています。
本来、はたらくは、止まっていたものが急に動くことを表し、そこから体を動かす意味となりました。
労働の意味で用いられるのは鎌倉時代からで、この意味を表すために「人」と「動」を合わせて「働」という国字が作られました。
その他、働くの語源は「傍(はた)を楽(らく)にする」からで、「他者を楽にすること」と言う人がいますが、このような組み合わせで動詞が生まれることはあり得ず、言葉遊びであって語源ではありません。
「働くの語源は傍を楽にすること」などと真顔で言っている人がいれば、怪しいビジネスの勧誘の可能性もあるため気をつけた方が良いでしょう。
7.蛤(はまぐり)
「ハマグリ」とは、「内湾の砂泥にすむマルスダレガイ科の二枚貝」です。貝殻は丸みのある三角形で、殻表は滑らかです。
ハマグリは形が栗の実に似ており、浜辺に生息していることから「浜栗」の意味が定説です。
ハマグリは『日本書紀』にも記述が見られるように、古くから食糧にされています。
植物の栗も古代から重要な食糧であるため、「山の栗」に対して「海の栗」と考えたのでしょう。
石を意味する古語「クリ」から、ハマグリは「浜の石」の意味とする説もあります。
しかし、石に見立てた場合に「浜の」とする点は疑問が残ります。
「蛤」は春の季語で、次のような俳句があります。
・蛤の 芥を吐かする 月夜かな(小林一茶)
・蛤の 荷よりこぼるる うしおかな(正岡子規)
・蛤を 買ひえて空の 藍ゆたか(渡辺水巴)
・汁椀に 大蛤の 一つかな(内藤鳴雪)
8.半ドン(はんどん)
「半ドン」とは、「半日休みであること。またその日のこと」です。半休。
半ドンの「半」は「半分」の意味、「ドン」は「ドンタク」の略です。
ドンタクは、オランダ語で「日曜日」「休日」を意味する「Zondag(ゾンターク)」に由来します。
「博多どんたく」の「どんたく」の語源でもある言葉で、明治時代から使われています。
土曜日が半日が休みだったことから、半分のドンタクで「半ドン」と呼ばれるようになり、半日休みをいうようになりました。
その他、半ドンの語源には、明治時代から太平洋戦争の頃まで、正午に空砲を撃つ地域があり、正午に「ドン」と撃つことからとする説があります。
しかし、全国で空包を撃っていたわけではなく、それが休みの合図でもないことから考え難い説です。
また、「半分休みの土曜日」という意味で、「半土」といったのが転じたとする説もあります。
しかし、「土(ど)」から「ドン」に変化するよりも、略される方が可能性は高く、「日曜日」や「休日」を「ドンタク」と呼んだ時代に、「ドンタク」と半ドンの「ドン」が全く関係ないのは不自然です。
「半ドン」という言葉が死語になったのは、企業や学校で週休二日制が導入され、土曜日が半日休みでなくなったためとも言われますが、週休二日制となる以前から、この言葉はほとんど使われなくなっていました。