日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.神輿(みこし)
「神輿」とは、「神幸・祭礼などで、神霊の乗り物とされる輿。多くは黒い漆塗りの木製で、屋根の上に鳳凰などを飾り、台に二本の棒を貫き、大勢が担いで運ぶもの」です。しんよ。
みこしは「こし(輿)」に敬意を表す接頭語の「み(御)」を添えた語です。
「みくじ」を「おみくじ」と言うように、さらに「お(御)」を付けて「おみこし」とも言います。
みこしの「こし(輿)」の語源は、「越し」の意味と考えられます。
「玉の輿に乗る」という言葉があるように、「輿」は元々、貴人の乗り物を言いましたが、平安中期頃から怨霊信仰が盛んになり、神霊を運ぶ物として「みこし」が使われるようになりました。
語源からすれば、本来の漢字は「御輿」ですが、心霊に伴うものなので「神輿」とも書くようになりました。
現代では、多くが祭りの時に担ぐ「みこし」を指すため、「神輿」と書くことが多いですが、「御輿」と書いても間違いではありません。
ただし、「しんよ」と言う場合は、「神輿」と書きます。
天皇の乗る輿を指す場合は、「神輿」ではなく「御輿」と書きます。
また、「輿」と「腰」を掛けた「みこしを上げる(立ちあがること)」や「みこしを据える(座りこんで動かないこと)」などの慣用句では、普通「御輿」が使われます。
2.実(み)
「実」とは、「植物の果実。汁の中に入れる野菜や肉などの具。中身。内容」のことです。
実は「身」と同源と思われますが、一音からなる語のため、それ以上の語源は未詳です。
植物には「実」の漢字が、人間や動物には「身」の漢字が当てられますが、和語としての「み」は同じ意味で用いられています。
漢字「実」の源字は「實」で、家の中に貝(宝物)がいっぱに満ちている意味の会意文字です。
3.ミサイル/missile
「ミサイル」とは、「主に軍事目的で使用するロケット兵器。誘導・無誘導で目標に打撃を与える兵器」です。誘導弾。
ミサイルの語源は、「飛ばしうるもの」「投げられるもの」を意味する形容詞「missile」に由来します。
「missile」は、ラテン語で「飛ばす」「投げる」を意味する「mittere」から派生した語です。
語源からもわかるように、本来、ミサイルは「飛ばす(投げる)ことができるもの」「飛び道具」を指す言葉です。
ミサイルの対象となるものには、「矢」や「鉄砲の弾丸」のほか、「石」や「瓶」も含まれていました。
現代では、主に軍事用語として使われ、ロケット兵器を指して「ミサイル」といいます。
4.蚯蚓(みみず)
「ミミズ」とは、「貧毛綱の環形動物の総称」です。体は細長く、多くの環節からなります。
ミミズには目がありませんが、光を感じる細胞があり、暗いほうへ這っていくため、目で見ることができない動物の意味から、「メミズ(目不見)」が転じたとする説が有力です。
また、土の中にすみ日光を見ないことから、「ヒミズ(日見ず)」の転も考えられます。
見ることを語源としない説には、「ミミ」がミミズの鳴き声、「ズ」が「キリギリス」などの「ス」と同じで、虫や鳥の名の下に付く「ス」が濁音化されたものという説もあります。
ミミズの鳴き声については、秋の夜、土中から「ジジイ(ジジー)」と聞こえてくるものをミミズの鳴き声とした、「蚯蚓鳴く(みみずなく)」という言葉もあります。
本当はケラの鳴き声なのですが、ミミズの鳴き声と勘違いしたのであれば、「ミミ」を鳴き声としても良さそうです。
しかし、聞こえる声自体が「ミミ」ではなく「ジジイ」なので考えがたく、「ジジズ」といった例もないことから、鳴き声の語源説は説得力に欠けます。
漢字の「蚯蚓」は、本来「キュウイン」と読み、中国語からの借用です。
平安時代の辞書『和名抄』には「蚯蚓 美美須」とあり、ミミズに「美美須」の字が当てられていたことがわかります。
「蚯蚓」は夏の季語、「蚯蚓鳴く」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・出るやいな 蚯蚓は蟻に 引かれけり(小林一茶)
・参道を 渡る横川の 大蚯蚓(志城柏)
・蚯蚓鳴いて 夜半の月落つ 手水鉢(河東碧梧桐)
・蚯蚓鳴く 六波羅蜜寺 しんのやみ(川端茅舎)
5.蜜柑(みかん)
「みかん」とは、「ミカン科の常緑小高木・柑橘類の総称」です。特に、温州(うんしゅう)みかんをいいます。
みかんは、1603年の『日葡辞書』に「miccan」と表記されているように、古くは「ミッカン」と発音されていましたが、促音の「ッ」が省略され「ミカン」となりました。
室町時代に中国から伝えられた品種が、それまであった柑橘類とは異なり甘かったことから、蜜のように甘い「柑子(カンジ・コウジ)」の意味で「蜜柑(ミッカン)」の語が生まれたと思われます。
「蜜柑」の文字は、室町時代から見られます。
「蜜柑」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・下積の 蜜柑ちひさし 年の暮れ(浪化)
・埋み置く 灰に音を鳴く みかんかな(黒柳召波)
・をとめ今 たべし蜜柑の 香をまとひ(日野草城)
・薬のむ あとの蜜柑や 寒の内(正岡子規)
6.水商売(みずしょうばい)
「水商売」とは、「客の人気・ひいきによって収入が左右される商売。主に、料理屋・バー・キャバレー」のことです。
水商売の語源は、以下の通り諸説あります。
①流水のごとく収入が不確定な商売の意味からとする説。
②芸妓などの職業を「泥水稼業」や「泥水商売」と呼んでいたことからとする説。
③江戸時代、街路などで茶や菓子を供し、人々の休憩所となっていた「水茶屋」からとする説。
多くは「水」を扱う商売に「水商売」が用いられるため、その点でいえば③の説が有力となります。
しかし、タレント業など「水」を扱わない稼業にも「水商売」は用い、客の人気によって収入が動く、盛衰の激しい商売の意味が主となっている言葉なので、①や②の説が有力と考えられます。
7.水芭蕉(みずばしょう)
「ミズバショウ」とは、「山地の湿原に自生するサトイモ科の大形多年草」です。
ミズバショウは、水気の多い湿地・湿原に生え、葉が大きくバショウの葉に似ていることから付いた名で、江戸時代から文献に現れます。
別名「牛の舌(ベコノシタ)」は、葉を牛の舌に見立てたものです。
尾瀬を歌った『夏の思い出』の歌詞によって特に有名になったため、ミズバショウは尾瀬の特産植物と思われることもありますが、北海道・中部以北、兵庫県などの湿原にも群生します。
「水芭蕉」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・湿原の ひかりの翼 水芭蕉(森田博)
・水芭蕉 ひらきし花は 一頁(平畑静塔)
・水芭蕉 水面(みなも)に山の 影重ね(宮崎要子)
・水底(みなそこ)に 倒木透けり 水芭蕉(高澤良一)
8.ミシン
「ミシン」とは、「布や革などを縫い合わせたり、刺繍をしたりするために使う機械」です。
ミシンは、「縫う機械」を意味する英語「sewing machine(ソーイング・マシン)」の「machine(マシン)」が転訛した語です。
18世紀の中頃から、イギリスでは種々のミシンが考案され、1851年、アイザック・メリット・シンガーによって実用化されました。
日本に初めてミシンが渡来したのは、1854年にペリー提督が来航した際に将軍家に贈られたもので、4年後の1860年には、ジョン万次郎がアメリカから持ち帰っています。