1.大学1年の時に英英辞典を買った話
皆さんは「英英辞典」をご存知でしょうか?これは、英語の「国語辞典」のことです。私は、大学1年の向学心旺盛な時に、この英英辞典を手にしました。
(株)開拓社発行の「ソーンダイクバーンハート常用英英辞典」(THORNDIKEーBARNHART COMPREHENSIVE DESK DICTIONARY)(略称CDD)で、定価1300円でした。ちなみに昭和44年発行の広辞苑の定価は3200円でした。
この辞典は文字が細かいので、今では「ハズキルーペ」の助けを借りないと読めませんが・・・
2.英英辞典を読む楽しみ
以前、「国語辞典を読む楽しみ」をご紹介する記事を書きましたが、この英英辞典についても、日本語の国語辞典と同様に読む楽しみがあります。
ある単語について、平易な英語で説明してあるので、語釈を読む前に自分で説明文を想定するのも英作文の勉強になります。また、前後の単語も読んで行けば、英単語の知識を増やすことが出来ます。
外国人に「アメンボ(飴坊、または、水黽、水馬)」を説明するのに、単語を覚えていない場合、その「生態」をたとえば、「the insect that swims on the water surface」などと説明することになるわけですが、そういう時に役立つのではないかと思います。ちなみに「アメンボ」は英語で、「pond skater 」または「 water strider」と言います。
日本語の国語辞典に比べて、一般には知られていない上、ちょっと取っつきにくいのが難点ですが、ある程度英語学習が進んだ段階で、時間に余裕が出来れば一度挑戦しても損はないと思います。
「知らない単語」を英英辞典で調べても、わかるまで時間がかかり過ぎますが、「知っている単語」が英語でどう説明されているかを読んでみるのは、興味深いものです。ネイティブである英米人が、その単語をどう理解しているか「ニュアンス」がわかる訳です。ひいては、「英語でものを考える力」がつくかも知れません。時間に余裕のある時に、英英辞典を読んで、「知らない単語」の項目で、説明文を見てどれだけ自分がその言葉の意味を理解できるか試してみるのも面白いと思います。
3.英英辞典(英語辞典)にまつわる面白い話
(1)ターヘル・アナトミア
江戸時代に、「ターヘル・アナトミア(解体新書)」を翻訳した杉田玄白や前野良沢らは、「オランダ語辞典」(蘭蘭辞典)と首っ引きで、悪戦苦闘しながら、大部の医学書の翻訳作業を進めたのでしょう。杉田玄白は、著書「蘭学事始」の中で、「中川淳庵がオランダ商館員から借りて来たオランダ語医学書『ターヘル・アナトミア』を見て、オランダ語は読めないが、図版の精密な解剖図に驚き、購入した。その後、偶然にも長崎から同じ医学書を持ち帰った前野良沢や、中川淳庵らとともに、刑場で解剖を実見し、解剖図の正確さに感嘆した」と述べています。
こんなエピソードを聞いたことがあります。ある単語がわからず、オランダ語辞典を引くと、「顔の真ん中の突き出たもの」というような説明があって、「鼻」とわかったというものです。そんな感じで、大変な時間と労力を使って、オランダ語を習得するとともに、翻訳を完成させたようです。これも、「ターヘル・アナトミア」の解剖図の凄い正確さを知って、是非とも翻訳したいという熱意が半端でなかったからこそ出来たことです。
(2)福沢諭吉のアメリカみやげ
福沢諭吉は1860年に遣米使節に随行して咸臨丸に乗ってアメリカを視察しました。使節一行にとっては見るもの聞くもの全て驚きの種で、「アメリカみやげ」としてのぞき眼鏡だのギヤマンのコップだの珍しい品物を出来る限り買い集めたようです。中国人の「爆買い」のようなものです。
ところが、彼と通弁(通訳)の中浜万次郎(ジョン万次郎)だけは、そんな品物には目もくれず、「ウェブストルという字引」(有名なウェブスター編の英語辞書)を1冊ずつ買い求めたそうです。福沢諭吉が買った辞書は残念ながら現存していませんが、中浜万次郎の買った辞書は現存しています。
(3)英語の正しい発音
ちなみに、中浜万次郎(ジョン万次郎)は土佐の漁師で、14歳の時漁船が遭難して漂流し、アメリカの捕鯨船に救助されて、アメリカに渡りアメリカの学校教育を受けた人物です。
彼は英語を覚えた際に、「耳で聞こえた発音をそのまま発音」しており、現在の英語の発音辞書で教えているものとは大きく異なっていたそうです。彼が後に記述した英語辞典の発音法の一例を挙げると、「こーる」=「cool 」「わら 」=「water」「さんれぃ」=「 Sunday 」「にゅうよぅ」=「New York」のようになっています。
実際に現在の英米人に中浜万次郎の発音通りに話すと、多少早口の英語に聞こえるが正しい発音に近似しており、十分意味が通じるという実験結果もあります。
私が子供の頃、明治時代に建てられた古い家で見つけた「昔の英和辞典の発音表記」によく似ています。
皆さんも一度「英英辞典」を手に取って見て下さい。