「北方領土返還」問題についてわかりやすくご紹介します

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北方領土

2016年から、安倍首相は「北方領土返還交渉」と「日ロ平和条約締結」に意欲を燃やしています。最近は「2島先行返還」の方向で交渉を進める方針のようです。しかし、北方領土は、戦後73年間にわたってソ連(後にロシア)に不法占拠されたままで、今もロシアの「実効支配」が続いています。

そして、ロシアのラブロフ外相は、「日本側が、第二次大戦の結果、(北方領土が)ロシア領になったと認めなければ、平和条約締結交渉は進展しない」と述べました。「北方領土を返還するとしても、主権はロシアにある」と訳の分からない主張をしています。

また、プーチン大統領は、「(北方領土が)国際的な文書により、ロシアの主権があると承認された領土だ」と主張しています。

実際に「北方領土返還」が実現したとしても、現実にはその後に対処すべき問題が非常に多いように思います。

今回は、「北方領土返還」のメリットとデメリットについて、考えて見たいと思います。この場合、「返還」とはあくまでも「主権の完全な回復」という意味です。

1.メリット

(1)現在、安倍首相は「2島先行返還」で交渉を進めようとしています。もしこれが成功すれば、「4島完全返還」への足掛かりになることです。

もともと1956年の「日ソ共同宣言」で、北方領土については平和条約締結後に、ソ連は日本に歯舞群島と色丹島を引き渡すことになっています。

しかし、この「2島先行返還」は、「2島しか返還しない」という結果に終わるリスクも抱えています。

(2)大型船の航行路が確保できることです。ただし、歯舞・色丹の2島返還だけでは、このメリットは生まれないようです。

(3)領海が増えることによって、漁業による利益が期待できます。

(4)海底にある海洋資源の開発が期待できます。

2.デメリット

(1)「既に居住しているロシア人や中国人の処遇」をどうするかです。北方領土にはロシア人が17,000人も住んでいるそうです。これらのロシア人たちを本国へ帰国させられるのか、居住を認めざるを得ないのか、国籍をどうするのかなど問題は山積しています。

(2)また、彼らの住居やインフラ設備をどうするのかという問題もあります。

(3)「中国資本が入った水産品加工工場」が2つも建設されているそうなので、これをどうするのかという問題もあります。

(4)ロシアは既に「軍事基地」を建設していますが、これをどうするのかという問題があります。日本としては、領土の最北端の守りのために「自衛隊基地」を置くことになりますが、ロシアの軍事基地を撤去したり、自衛隊の基地として転用することをロシアが承知することは、ほぼ100%ないでしょう。

(5)国土防衛上、ここに日本の最北端の「自衛隊の基地」を置くのは当然ながら日米同盟の関係上、ロシアの脅威への備えとしてアメリカ軍基地を置くことも考えられます。しかしこれをロシアが承知するかどうかという問題があります。これは、現実にはほぼ無理でしょう。

(6)返還の見返りとして莫大な経済協力資金を要求される恐れが高いことです。いわば、本来日本の領土であるのに、「北方領土を買う」ような結果になることです。

3.シベリア抑留問題

そもそも、ソ連は第二次世界大戦後の満州への侵攻で、武装解除した日本兵捕虜をシベリアへ強制連行して長期間抑留し、奴隷的な強制労働に従事させ、多くの兵士の命を奪っています。

平和条約を締結するのであれば、これら不法に奴隷的な強制労働に従事させられた日本兵の遺族(あるいはそれを一括して日本国)に対する「ロシアの賠償金支払い」が必要になってきます。

賠償金額は、北方領土4島全ての建物や設備を接収しても足りないくらいの莫大な金額になると思われます。

この『シベリア抑留』の被害者は、57万5千人に上り、厳寒環境下で満足な食事や休養も与えられず、苛烈な労働を強要されたことにより、約5万5千人が死亡しています。この状況については、山崎豊子さんの小説「不毛地帯」に詳しく描写されています。

また、この『シベリア抑留』は、第二次世界大戦終結の後に行われたもので、戦争終結後に武装解除した兵士を捕虜にすることは、国際法違反ですし、武装解除した日本兵の家庭への復帰を保証した「ポツダム宣言」に明らかに反するものです。

4.日ロ平和条約締結を急ぐメリットは全くない

このような無法で酷薄非情な覇権国家であるロシアが、そう簡単に日本に有利な北方領土返還に応じるとは到底考えられません。

1972年の「アメリカからの沖縄返還」でも、本来アメリカが負担すべき費用を裏では日本が支払っていた事実(沖縄返還にかかる「密約文書」問題)がありますので、ある程度の「経済協力名目」の資金供与は必要になって来るとは思います。

しかし「盗人に追い銭」のように「日本がお金を取られただけでメリットがほとんどない」結果になるようなら、「現状維持」の方がましかもしれません。「日ロ平和条約交渉」も、特に急ぐ必要は全くありません。

安倍首相は、任期中の政治的成果として、「北方領土返還」と「日ロ平和条約締結」を目指そうとしていることはわかりますが、国益を損ねる結果とならないようお願いしたいものです。

草茅危言(そうぼうきげん)ではありますが、日本政府には、「ロシアとの交渉は、慎重の上にも慎重に」と重ねてお願いしたいと思います。

蛇足ですが、北方領土に関して私の印象に強く残っている小説があります。それは浅田次郎氏の「終わらざる夏」です。これは、「占守島(しゅむしゅとう)の戦い」を描いたものです。

太平洋戦争が「終戦」した2日後の1945年8月17日、日本領だった千島列島北東端(カムチャツカ半島の南端のすぐ近く)の占守島にソ連軍が攻め込んだ出来事です。当時日本はソ連と「日ソ不可侵条約(日ソ中立条約)」を結んでいましたが、ソ連は千島列島、樺太、さらには北海道北部を奪い取ろうと「不法侵攻」を仕掛けたのです。

この時、ソ連軍の侵攻を食い止めたのが、占守島に残っていた日本軍将兵たちでした。彼らの奮戦がなければ、北海道の北半分が、朝鮮半島のように共産国にされていたかも知れない訳です。

池上彰氏によれば、「当時、ソ連のスターリンは第二次世界大戦を『大祖国戦争』と呼んだ。祖国を守る戦い、すなわちドイツから祖国を守る戦いだったはずが、実は『祖国の栄光のために』と、日露戦争で日本が領有化した土地を奪い返すという野心も抱いた」とのことです。

そして「占守島で、日本軍の守備隊が必死に戦った結果、北海道北部がソ連に占領されないで済んだんじゃないか?これは驚くべき史実です」とも語っています。

【占守島の戦い】北海道を救った士魂部隊。終戦直後、祖国のためにソ連軍の侵攻を阻止した男たち。