日本語の面白い語源・由来(た-⑧)伊達巻き・伊達・棚卸・たん瘤・箍が緩む・田作り・鱈場蟹・忽ち

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伊達巻

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.伊達巻き(だてまき)

伊達巻

伊達巻き」とは、卵黄に白身魚のすり身を混ぜて厚焼きにし、簀(す)で渦巻き形に巻いたものです。伊達巻き卵。

伊達巻きの語源には、伊達政宗が好物だったとする説。
色や形が華やかで、おせちなど晴れがましい料理に用いられるところから、「伊達な(派手な)巻き卵」の意味で「伊達巻き」になったとする説。
帯を締める下ごしらえなど、婦人が用いる和服の幅の狭い帯の「伊達巻き」に似ているところから名付けられたとする説があります。

伊達政宗が食べた料理を記した書物には、似た食べ物どころか卵料理を食べた記録も残っていないため、政宗の好物という説は考え難いものです。

「伊達」は「人目をひく」「お洒落」などの意味で使われる言葉で、晴れの料理に用いられることを考えれば、「派手な巻き卵」の意味とする説が有力です。

また、渦状に巻く姿が帯にも通じ、「派手な巻き卵」と「帯」の両方の意味からとも考えられます。

ただし、帯の語は人目をひく意味の「伊達」からきており、元を辿れば同じです。

2.伊達(だて)

伊達政宗

伊達」とは、侠気(きょうき・おとこぎ)を見せること(また、そのさま)、人目をひく派手な行動や派手な服装で外見を飾ること、好みが粋であるさま、洒落ているさまのことです。

伊達の語源は、「忠義立て」など「ことさらそのように見せる」「いかにもそれらしく見せる」といった意味を表す接尾語「だて(立て)」です。

この接尾語が、室町末期頃から名詞や形容動詞として独立しました。

伊達政宗の家臣が華美な服装で人目をひいたことを語源とする説が有名です。

しかし、「だて」に「伊達」の漢字が使われている由来は、伊達政宗にちなんだと考えられるものの、「だて」という言葉本来の由来と伊達政宗は関係ありません。

3.棚卸し/店卸し(たなおろし)

棚卸

棚卸し」とは、決算や整理、毎月の損益計算のために在庫の商品・原材料・製品の種類・数量・品質を調査し、価格を評価することです。他人の欠点をいちいち数え上げること。

棚卸しは文字通り、棚から品物をおろすことで、近世には、正月上旬の吉日や7月に、棚に上げておいた品物をおろして調べられていました。

棚卸しの「卸し(卸す)」は、「下ろす」と同源です。

「店卸し」とも表記するのは、商品棚を「店」とも表記するためで、「店棚」を表す場合に多く使われます。

棚卸しは品物をひとつひとつ調べることから、普段の行いを調べ上げる意味でも用いられ、転じて、他人の欠点を数え上げる意味にもなりました。

4.たん瘤(たんこぶ)

たん瘤

たんこぶ」とは、こぶの俗な言い方です。こぶたん。

たんこぶが打撲などで盛り上がった部分を指すのに対し、こぶは臓器にできるものや、物の表面が膨れ上がった部分、紐の結び目など、「塊」といった広い意味でも用いられます。

そのため、打撲による「こぶ」であることがわかるよう、「たん」が加えられて「たんこぶ」になったと解釈できます。

区別のためとした場合、たんこぶの「たん」は、「叩く」の意味や叩いた時の音「タン・トン」、こぶの色から「赤」を意味する「たん(丹)」、多くは頭にできた瘤をいうことから「とう(頭)」の音変化など考えられますが、特定は困難です。

たんこぶの語源には、アイヌ語「tapkop」からという説もあります。しかし、たんこぶは「こぶ」に「たん」が加わった語で、「たんこぶ」の「たん」が略され「こぶ」が生じたわけではないため、この説は採用できません。

5.箍が緩む(たががゆるむ)

樽のタガ

箍が緩む」とは、緊張がゆるんだり、年をとって鈍くなること、締りがなくなること、規律がゆるむことです。

箍が緩むの「箍(たが)」とは、竹などを裂いて編んだ輪のことで、桶や樽などの周囲にはめ、堅く締めかためるために用いられます。

この箍が緩むと胴がバラバラに分解されてしまうことにたとえ、感覚が鈍ったり、気持ちや規律が緩むことを「箍が緩む」と言うようになりました。

6.田作り(たづくり)

田作り

田作り」とは、小さなカタクチイワシを素干した乾物、また、それを炒って、醤油・砂糖・みりんを煮詰めて甘辛くした汁をからめたものです。正月の祝い肴。ごまめ。

田作りは、文字通り「田を作ること」に由来します。

昔は、田植えの肥料に乾燥したイワシが使われていたことから、「田作り」と呼ばれるようになりました。

田作りが正月のおせち料理に入れられるのは、田植肴として田作りを食べて豊作を祈願していたことに由来します。

「田作り」は新年の季語で、次のような俳句があります。

・田作や 松千本の 音なかり(齋藤玄)

・田作の 秤りこぼるる 光かな(永井暁江)

・集ひ来し 子孫と祝ふ 柿ごまめ(堀/勇夫)

・ごまめ喰ふ 暦日めぐり 来て迅し(角川春樹)

7.鱈場蟹/タラバガニ(たらばがに)

タラバガニ

タラバガニ」とは、エビ目ヤドカリ下目タラバガニ科の甲殻類です。甲羅は約25センチ。脚を広げると1メートル以上になります。多羅波蟹。

タラバガニは、北海道以北の日本海やオホーツク海など、タラの漁場で多く獲れることから「タラバ(鱈場)」の名があります。

名前に「カニ」が付き、英語でも「King crab(キングクラブ)」と呼ばれ、水産業でもカニの一種として扱われていますが、タラバガニはカニではありません。

第四腹脚が退化し甲の陰に隠れていることや、腹部の形が左右非対称となっていることから、分類学上はヤドカリに分類されます。

タラバガニの漢字は、語源のとおり「鱈場蟹」と表記しますが、音からの当て字で「多羅波蟹」とも表記されます。

「鱈場蟹」は冬の季語です。

8.忽ち(たちまち)

忽ち

たちまち」とは、非常に短時間で物事が行われるさまです。すぐ。即刻。突然事態が発生するさま。にわかに。急に。

たちまちは、立ったまま事の成りを待つ意味の「立ち待ち」に由来します。

現代のスピード感覚で言えば、立って待っている時間を「短時間」とは考えませんが、「立ち待ち」は旧暦17日の夜の月(特に、旧暦8月17日の月)を表す「立待月(たちまちづき)」の略としても知られます。

この立待月は、立って待っている間(たちまち)に出る月の意味で、「たちまち」の語が生じた時代は、時間の感覚がゆったりとしていたのです。

立待月よりやや遅く出る18日の月(特に旧暦8月18日の月)は、座って待つ月の意味から「居待月(いまちづき)」、それよりも更に遅く出る19日の月(特に旧暦8月19日の月)は、寝て待つ月の意味から「寝待月(ねまちづき)」と言います。