日本語の面白い語源・由来(つ-②)蹲・都合・唾・つうと言えばかあ・旋毛・角隠し・椿・躑躅

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蹲踞

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.蹲/蹲踞(つくばい)

蹲

つくばい」とは、茶室の庭先に据える、石や岩などをくりぬいてつくった手水鉢(ちょうずばち)のことです。

龍安寺では「知足の蹲踞(つくばい)」(上の写真)と呼ばれています。上になにやら文字が書かれていますね。水溜めに穿った中心の正方形を漢字部首の「口」と見て、その周りを時計回りに見ると、五→隹→疋(但し、上の横棒がない止みたいな文字)→矢

実はこれ、吾→唯→足→知と書いてあるのです。4つの文字に共通する「口」の字を真ん中に置いているのです。吾唯足知(われただたるをしる)と読みます。

「知足のものは貧しといえども富めり、不知足のものは富めりといえども貧し」という禅の格言を謎解き風に図案化したものです。

つまり「金持ちでも満足できない人はできないし、貧乏でも感謝の心を持てば満足できる」という意味です。

つくばいは、「しゃがむ」「うずくまる」「かがむ」などを意味する動詞「つくばう」が語源です。

茶室に入る前に手を清めるのに用いるもので、手を洗う際に低い姿勢になることから、「つくばい」と呼ばれるようになりました。

2.都合(つごう)

都合

都合」とは、「物事をする時に他の物事に影響を及ぼす事情。具合が良いか悪いかということ。差し障り。やりくりすること。工面すること。合計」のことです。

都合の「都」の字には「すべて」の意味があり、「すべてを合わせる」「合計する」というのが、都合の原義です。

「合計」の意味では現代語でも、副詞として「都合百人になる」などと用いられます。
「合計」から「工面」や「やりくり」の意味が生じ、すべて調整した際の事情などから、都合には「具合」や「調子」の意味が生じました。

都合が「事情」や「具合」「状況」などの意味で多く用いられるようになったのは、近世以降のことです。

3.唾(つば)

唾

」とは、唾液(だえき)のことです。つばき。

「つば」は「つばき」の「き」が脱落した語で、現代の言葉で言えば「唾吐き(つばはき)」が語源です。

古くは「つはき」と清音で、「つ」が「唾」、「はき」が「吐く」を意味し、唾を吐くという意味の動詞でした。

平安時代頃より「つはき」は「唾液」の意味で使われ始め、ハ行転呼音で「つわき」と、濁音化した「つばき」の二つの形が見られるようになります。

江戸時代に入ると「き」の脱落した形での使用が増え、「つば」が一般的な呼称となりました。

「天に唾する」(または「天に向かって唾を吐く」)という言葉があります。四字熟語では「向天吐唾(こうてんとだ)」と言います。他人に害を与えようとして、自分にその害が返ってくることです。天に唾を吐きかけようとして、自分の顔に落ちてくるという意味から。

4.つうと言えばかあ(つうといえばかあ)

つうと言えばかあ

つうと言えばかあ」とは、互いに気心が知れていて、ちょっと言うだけで通じるさまのことです。つうかあ。ツーカー。

つうと言えばかあは近世から見られる語で、略した「つうかあ(ツーカー)」や、その間柄をいう「つうかあの仲(ツーカーの仲)」は、昭和40年代頃から使用が見られます。

「つう」と「かあ」の語源は諸説あり、正確なことは分かっていませんが、「つぅことだ」と言った相手に対し「そうかぁ」と答え、内容を言わなくても伝わる関係を表しているとする説が有力です。

情報が筒抜けであることや滑らかな様子を表す擬態語「つーつー」や、事情をに通じていることをいう「つう(通)」など、「つう」に関しては他に考えられるものもあります。
その場合は、語呂合わせに「かあ」が添えられたとも考えられます。

その他、「通過の仲」の「通過」が砕けた語とする説もあります。

これは、漢語が流行した明治末期から大正にかけて生まれた言葉で、物事が通過するように相手に伝わることを「通過の仲」といったとするものです。

しかし、「つうかあ」が「つうと言えばかあ」の略された語であることを考慮されておらず、成立した時代も異なることから考えがたい説です。

ツルが「ツー」と鳴いて、カラスが「カー」と答えるところからという説もあります。
しかし、ツルとカラスの関係が定かではありません。
また、ツルは「ツー」と鳴かず、ふつう鳴き声は「ケーン」と表現されます。
この説は、先に「かあ」をカラスの鳴き声に見立て、「つう」に意味を持たせるため、名前が「ツ」から始まる鳥を考え、「鶴の一声」にも関連付けて作られたものでしょう。

5.旋毛(つむじ)

旋毛

つむじ」とは、髪の毛が渦巻き状に生えているところのことです。つじ。

つむじは「旋風」の意味で用いられる方が古く、髪の毛の渦をつむじ風に見立てたものです。
「つむ」は、心棒の「つむ(錘)」や「つむぐ(紡ぐ)」の「つむ」など、回るものの意味。
「じ」は、「あらし(嵐)」の「し」や「かぜ(風)」の「ぜ」など、「風」の意味といわれます。

ただし、「つじ(辻)」は「つむじ」が音変化した語で、「つむじ」は「つじ」とも言うことから、複数の線が集まるところを表す語であったとも考えられます。

6.角隠し(つのかくし)

角隠し

角隠し」とは、婚礼で和装の花嫁が髪を覆う被り物です。表は白絹。裏は紅絹。

江戸時代、能楽で女の生霊が嫉妬で鬼形になることから、また怒りの形相が角を生やした鬼に似ていることから、「つの(角)」の語は女性の嫉妬や怒りのたとえに用いられました。

角の意味から見た場合、被る目的は花嫁の嫉妬心を抑えるためで、語源もその意味からと考えられます。

しかし、先に風習があり、後から言葉が生まれた可能性もあります。

このような物を被る習慣が先にあったとすれば、顔のすみ(角)を隠すところから「すみ隠し」と呼ばれていたものが、先の「つの」と関連付けられ、「つの隠し」に変化したと考えられます。

7.椿/山茶/海石榴(つばき)

椿

ツバキ」とは、早春、赤い花が咲くツバキ科の常緑高木です。葉は楕円形で厚く、光沢があります。交雑種には白や桃色の花もあります。種子から椿油を採ります。

ツバキの語源には、光沢のあるさまを表す古語「つば」に由来し、「つばの木」で「ツバキ」になったとする説。
「艶葉木(つやはき)」や「光沢木(つやき)」の意味とする説。
朝鮮語の「ツンバク(Ton baik)」からきたとするなど諸説あります。

漢字の「椿」は、日本原産のユキツバキが早春に花を咲かせ春の訪れを知らせることから、日本で作られた国字と考えられています。

一方、中国で「椿」は「チン(チュン)」と読み、別種であるセンダン科の植物に使われたり、巨大な木や長寿の木に使われる漢字で、『荘子』の「大椿」の影響を受けたもので国字ではないとの見方もあります。

なお、ツバキの中国名は「山茶(サンチャ)」です。

「椿」は春の季語で、次のような俳句があります。

・鶯の 笠おとしたる 椿かな(松尾芭蕉

・椿落て 昨日の雨を こぼしけり(与謝蕪村

・ゆらぎ見ゆ 百の椿が 三百に(高浜虚子

・赤い椿 白い椿と 落ちにけり(河東碧梧桐

8.躑躅(つつじ)

躑躅

ツツジ」とは、ツツジ科ツツジ属の植物の総称です。常緑または落葉性の低木。春から夏にかけ、先端が五裂した漏斗形の花をつけます。

ツツジの語源には、「ツヅキサキギ(続き咲き木)」の意味。
つぼみの形が女性の乳頭に似ていることから、「タルルチチ(垂乳)」の略転。
「ツヅリシゲル(綴り茂る)」の意味や、朝鮮語でツツジの仲間を広く指す「tchyok-tchyok」「tchol-tchuk」の転訛など、多くの説があります。

漢字の「躑躅」は漢名からで、「てきちょく」とも読みます。
「躑躅(てきちょく)」には、「行っては止まる」や「躊躇」など意味があり、見る人の足を引き止める美しさから、この漢字が使われたといわれます。

他には、本来「羊躑躅」で、葉を食べたヒツジが、躑躅して死ぬことからという説もあります。

「躑躅」は春の季語で、次のような俳句があります。

・ひとり尼 わら屋すげなし 白つゝじ(松尾芭蕉)

・大文字や 谿間(たに)のつゝじ 燃んとす(与謝蕪村)

・庭芝に 小みちはありぬ 花つつじ(芥川龍之介)

・築地あり 小さきつつじを 植ゑ並べ(松本たかし)