日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.花菖蒲(はなしょうぶ)
「ハナショウブ」とは、「アヤメ科の多年草で、ノハナショウブを改良した園芸種」です。同じアヤメ属のアヤメやカキツバタとよく似ています。
ハナショウブは、ノハナショウブを改良した園芸品種なので、ノハナショウブから「ノ(野)」を外した名前といわれます。
しかし、改良・育成が始まったのは江戸時代ですが、それよりも200年以上前から「ハナショウブ」の名が見られ、ノハナショウブを指していたと考えられています。
それを踏まえると、古くは「ノハナショウブ」と「ハナショウブ」に区別はなく、別種で花のないショウブ科(サトイモ科)の「ショウブ(菖蒲)」と区別するための名で、改良した園芸品種ができたことから、原種を「ノハナショウブ」、園芸種を「ハナショウブ」と明確に分けて呼ぶようになったという見方もできます。
「花菖蒲」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・花菖蒲 津田の細江の 便りかな(松岡青蘿)
・足首の 埃たたいて 花さうぶ(小林一茶)
・万座より 落せる水の 花菖蒲(前田普羅)
2.パーティー/party
「パーティー」とは、「社交のための集まり。行動を共にする集団」のことです。
パーティーは、英語「party」からの外来語です。
partyは、「分ける」を意味するラテン語「partita」に由来し、「分割」「部分」を意味する「part」と同源です。
パーティーが「分割」の意味から、「派閥」「団体」「グループ」、さらに、親睦・祝賀・記念などのために開かれる社交的な会合を意味するようになるのは、行動を共にしたり、同じ目的のために集まった人々は、他から分かれた集団だからです。
3.白鼻心/ハクビシン(はくびしん)
「ハクビシン」とは、「体長約50センチのジャコウネコ科の哺乳類」です。雑食性でネズミ・昆虫・カニ・木の実などを食べます。東南アジア・中国・台湾・日本などに分布します。
ハクビシンは日本でつけられた名前で、体が灰褐色で顔は黒色ながら、ひたいから鼻筋を思わせる白い模様が入っていることに由来します。
中国では「果子狸」や「花面狸」といいますが、これらもハクビシンの派手な顔の色合いに由来する名と思われます。
4.ハーブ
「ハーブ」とは、「薬や香料として用いる草の総称」です。香草。薬草。香りや薬効がある植物全般にもいいます。
ハーブは、「緑の草」を意味するラテン語「herba」に由来します。
これが12世紀にフランス語に入り、13〜14世紀頃には英語に入って「herb」となりました。
ハーブの語源である「herba」は、古い印欧祖語で「若芽」「成長する」「緑色になる」などの意味の「*gher-」に由来します。
この語は、英語の「grass(草)」「grow(成長する)」「green(緑)」などの語源でもあります。
5.パビリオン/pavilion
「パビリオン」と言えば、団塊世代の私は1970年の大阪万博のパビリオンをまず思い出します。
「パビリオン」とは、「博覧会などの仮設建物。貴族の庭などに作られるあずまや。 建物の別棟」のことです。
パビリオンは、英語「pavilion」からの外来語です。
pavilionは、「蝶」を意味するフランス語「papillon(パピヨン)」と同源で、ラテン語の「papilio(蝶)」に由来します。
古フランス語では「蝶」の意味のほか、テントの形が羽を広げた蝶に似ていたことから、「大きなテント」の意味を持つようになりました。
これが13世紀に英語に入って、移動可能なテントを表す「pavilion」となり、仮設の建物を表すようになりました。
万博などの展示館を表すようになったのは、19世紀末頃です。
日本で「パビリオン」の語が一般化したのは、1970年の大阪万博からです。
6.流行る(はやる)
「流行る」とは、「ある時期に世間で広くもてはやされる。悪いことが世に広がる。商売などが繁盛する」ことです。
流行るは「逸る(はやる)」と同源で、「はや(早)」の動詞化です。
はやるは「一つの対象にひかれ、そちらに進む」を意味し、そこから「時めく」「世に広がる」などを意味するようになったのが「流行る」、「焦る」「勇み立つ」の意味になったのが「逸る」です。
近世に漢語の「流行」と「はやる」の意味が混同され、「流行る」の漢字が当てられるようになりました。
7.バイキング料理(ばいきんぐりょうり)
「バイキング料理」とは、「多種類の料理を並べ、客が好みによって自由に皿に取り分けて好きなだけ食べる形式の料理」です。
バイキングは、8世紀から11世紀にかけてヨーロッパ各地を侵攻した北方ゲルマン族の通称で、のちに海賊を意味するようになった語ですが、食べ放題の「バイキング」と直接関係するものではありません。
日本で食べ放題のことを「バイキング」と呼ぶのは、帝国ホテルのレストラン『インペリアルバイキング』の名に由来します。
1957年(昭和32年)、帝国ホテルの支配人であった犬丸徹三が、デンマークの首都コペンハーゲンのホテルで北欧式ビュッフェの「スモーガスボード」を食べました。
犬丸は「好きなものを好きなだけ食べる」というスタイルが日本でも必ず受けると考え、翌年、新しく開館した帝国ホテル第二新館に「スモーガスボード」を提供するレストランをオープンしました。
レストランのオープンに際し、店名を社内公募した結果、当時上映されていた映画『バイキング』の中で、海賊たちが豪快に食事をしていたシーンが印象的だったことと、「北欧の歴史といえばバイキング」という発想から、『インペリアルバイキング(インペリアルは帝国の意)』と命名されました。
この形式を真似た後発の店が、定額の食べ放題を「バイキングスタイル」と表現したことから、ビュッフェ形式の料理は「バイキング料理(単に「バイキング」とも)と呼ばれるようになりました。
8.伯楽(はくらく)
「伯楽」とは、「人の能力を見抜く力のある人。また、その能力を引き出し育てるのが上手な人」のことです。多くは「名伯楽」の形で使われます。
伯楽は、中国春秋時代に秦の穆公に仕えたという、孫陽のあざなに由来します。
孫陽は馬の良否を見分ける鑑定能力が高かったことから、天馬を司る星の名「伯楽」をとって、こう呼ばれるようになりました。
そこから、馬の素質を見分ける人や、牛馬の病気を治す人を「伯楽」と呼ぶようになり、人の資質を見抜く力のある人にも「伯楽」が使われるようになりました。