日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.箱入り娘(はこいりむすめ)
「箱入り娘」とは、「みだりに外へ出さないよう大切に育てられた娘」のことです。
箱入り娘の「箱入り」は、江戸時代、特に大切な物を箱に入れて保管したり、運んだりしたことから言ったもので、現代でも高価な商品は「箱入りの◯◯」や「化粧箱入りの◯◯」として売られます。
そこから、箱に入っていないものでも比喩として使われ、「大切なもの」「とっておきのもの」の意味で「箱入り」は用いられるようになりました。
「箱入り娘」の他にも、「箱入りの思案(考えぬいた策)」「箱入りの芸(とっておきの芸)」の形で使われていましたが、それらの多くは「十八番(おはこ)」の形で表現されるようになりました。
2.バスト/bust
「バスト」とは、「胸。胸部。女性の胸回り。また、その寸法」のことです。
バストは、英語「bust」からの外来語です。
「bust」はイタリア語「busto(ブスト)」に由来し、「busto」は「墓」「火葬場」を意味するラテン語「ブストゥム」に由来します。
「墓」を意味する言葉が「胸」を表すようになったのは、西洋の墓石の上には故人の胸像が飾られるためです。
つまり、バストは墓石に胸像が飾られることから「胸像」や「半身像」を意味するようになり、そこから「胸」や「上半身」、更に「胸回りのサイズ」を表すようになったのです。
日本では「バスト」が「胸周りのサイズ」を指すことが多く、「上半身」の意味で使われることは少ないですが、人物の胸から上を撮影する際には、「バストショット(バストアップショット)」の語が用いられます。
3.ハンドルネーム
「ハンドルネーム」とは、「インターネット上で使うニックネーム」です。ユーザーIDとは別に、自分で自由に決められることが多いものです。HN。
ハンドルネームは「hundle」+「name」の和製英語で、英語では単に「handle(ハンドル)」と言います。
ハンドルは「取っ手」や「柄」の意味のほか、上流階級の人が軽い冗談として「肩書き」の意味で使っていた言葉です。
そこから、アマチュア無線やパソコン通信などで俗語として「名前」「ニックネーム」を意味するようになり、インターネットの世界でも「ハンドル」の語が用いられるようになりました。
上記の通り、ハンドルに「名前」の意味が含まれているため、「ハンドルネーム」とするのはおかしいですが、日本では車などを操縦するハンドルの意味が強いため、名前の意味と分かるように「ネーム」が付けられ、「ハンドルネーム」と呼ぶようになりました。
4.発破をかける/発破を掛ける(はっぱをかける)
「発破をかける」とは、「強い言葉をかけて激励する。気合いを入れる」ことです。
発破をかけるの「はっぱ」は、鉱山や土木工事などで爆薬を使って爆破することや、それに用いる火薬を表します。
発破のように激しく力強い言葉をかけるところからたとえて、「発破をかける」と言うようになりました。
「葉っぱをかける」と誤表記されることもありますが、葉っぱをかけたところで何の強さもなく、気合いを入れることは出来ません。
5.背水の陣(はいすいのじん)
「背水の陣」とは、「一歩も退くことの出来ない絶体絶命の状況・立場。また、失敗すれば後はないことを覚悟して全力で事に当たることのたとえ」です。
背水の陣は、中国の史記『淮陰侯伝』の以下の故事によります。
漢と趙との戦いで、漢軍の兵士は寄せ集めばかりだった。
そこで漢の韓信(かんしん)は、あえて川を背に陣を敷き、兵士達が退けば溺れるほかない捨て身の態勢にした。
趙の軍は兵法の常識を破り、川を背にして陣をとった漢の軍を見て大笑いした。
しかし、韓信の目論見どおり漢軍の兵は決死の覚悟で戦い、見事勝利をおさめたという。
この故事から、絶体絶命の状況を「背水の陣」、失敗の許されない状況で全力をあげて事にあたることを「背水の陣を敷く」「背水の陣で臨む」と言うようになりました。
6.判子(はんこ)
「はんこ」とは、「印。印鑑。印章。印判。判」のことです。
はんこは「版行・板行(はんこう)」が音変化した言葉で、漢字で「判子」と書くのは当て字です。
版行(板行)は、図書や文書を判木で印刷し発行することで、刊行や出版と同じ意味です。
それが、鎌倉時代から、印形や印章の意味でも用いられるようになりました。
18世紀後半頃より、音変化した「はんこ」の形が見られるようになり、しばらくは「はんこう」と「はんこ」の両方が使われていましたが、現代では「はんこ」を用いることが多くなっています。
なお、判子と印鑑の違いについては、「意外と知らない言葉の本当の意味や由来 印鑑と判子・破天荒・圧巻・炎上など」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
7.白眉(はくび)
「白眉」とは、「大勢の中で最も傑出した者。兄弟の中で最も優れている者。数ある優れたものの中で、最も優れているもの」のことです。
白眉は、中国の『蜀書(馬良伝)』の故事に由来します。
三国時代の蜀に、優秀な五人兄弟がいた。
その兄弟の中でも、最も優れた馬良(ばりょう)の眉には白い毛があった。
このことから、多くの中で最も優れた人物を「白眉」というようになった。
使用例は少ないですが、物についても「白眉」の語は使われます。
8.博多どんたく(はかたどんたく)
「博多どんたく」とは、「毎年5月5日・4日に福岡市で行われる年中行事」です。市民が仮装姿でしゃもじを叩いて町を練り歩き、舞台や広場で踊りを披露します。
博多どんたくの「どんたく」は、オランダ語で「日曜日」「休日」を意味する「Zondag(ゾンターク)」に由来するといわれます。
「Zondag」は、「土曜日」や「半日休み」を意味する「半ドン」の語源でもあります。
明治はじめ頃から用いられた語で、慶応4年(1868年)から明治9年(1876年)にかけ、毎月1と6の日が休日だったことから、「一六のどんたく」「一六休暇(ぞんたく)」とも表現されました。
博多どんたくは、冶承3年(1179年)小正月の松囃子として始まり、福岡と博多の町が交流する行事ともなりました。
明治5年(1872年)、新政府下の福岡県知事により松囃子の禁止令が出されたが、明治12年(1879年)に松囃子を復活させるため、「どんたく」と呼称を変えて再開されました。
昭和16年(1941年)の大東亜戦争によって一時中止されましたが、戦災の町を復興させようと昭和21年(1946年)に復活しました。
昭和37年(1962年)には、「福岡市民の祭り 博多どんたく港まつり」として、市民総参加の福岡市民の祭りに位置づけられるようになりました。
年々盛んになり、ゴールデンウィーク中、日本最大の祭りとなりました。
「どんたく」は春の季語です。