夏目漱石の漱石枕流など作家や文学者の面白いペンネームの由来をご紹介します!

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二葉亭四迷

(二葉亭四迷)

なじみ深い作家や文学者、作曲家などのペンネーム(筆名)でも、その由来が何なのか知らないことも多いのではないでしょうか?

このブログのハンドルネーム「historia」は私の歴史好きに由来しています。「そんなこと誰が興味あるねん!!」とツッコミを入れられそうですが、私はシンプルで気に入っています。

今回は面白いペンネームの由来をいくつかご紹介したいと思います。

1.故事や漢語に由来するもの

(1)夏目漱石(本名:夏目金之助)

夏目漱石(1867年~1916年)のペンネームは有名なので、ご存知の方も多いと思いますが、中国の故事に由来しています。

「枕石漱流(ちんせきそうりゅう)」というのは、「石を枕に、清流で口を漱(すす)ぐ」という隠遁生活を表す言葉ですが、これをある人が「漱石枕流(そうせきちんりゅう)」と言い間違えました。これでは「石で口を漱ぎ、清流を枕にする」ということになります。友人が誤りを指摘しましたが、その人は「負けず嫌い」だったため、「石に漱ぐのは歯を磨くため、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言ってごまかし、訂正しなかったそうです。そこで「漱石枕流」は「負け惜しみが強い頑固者」という意味で使われるようになりました。

この「漱石」というペンネームは、「負け惜しみが強い頑固者」という意味で夏目漱石の性格にぴったりだと今では誰しも思うのですが、元々は正岡子規のペンネームの一つでした。それを漱石が気に入って譲ってもらったのだそうです。

(2)正岡子規(本名:正岡常規(つねのり)、幼名は処之助、のち升(のぼる)と改名)

正岡子規(1867年~1902年)は22歳で結核になり、喀血(かっけつ)した時に、ペンネームを「子規」としました。「子規」とは「鳴いて血を吐くホトトギス」と言われるホトトギスのことです。

ホトトギスには、「時鳥、不如帰、霍公鳥、杜鵑、沓手鳥」など様々な漢字表記がありますが、正岡子規も多くのペンネームを持っていました。「獺祭書屋主人(だっさいしょおくしゅじん)、竹の里人、香雲、地風升、野球(のぼーる)、越智処之助(おちところのすけ)」など54種類もあり、「漱石」もその一つでした。

(3)樋口一葉(本名:樋口奈津)

樋口一葉(1872年~1896年)のペンネームの由来は、当時彼女が困窮していたこと(お足がないこと)を、「枚の葦のの舟に乗ってインドから中国に渡り、面壁九年の座禅で手足が腐ってしまった達磨大師の故事」に引っ掛けたものです。

新聞小説では「浅香のぬま子」や「春日野しか子」というふざけたペンネームを使ったこともあるそうですが、戯作者の名前のようで、私はこれには幻滅します。

一葉は24歳の若さで亡くなる直前の1894年12月から1896年2月の間に、「大つごもり」「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などの名作を次々に発表しました。これは「奇跡の14ケ月」と呼ばれています。

ところで余談ですが、一葉には夏目漱石の長兄・大助との間で縁談の話があったそうです。一葉の父・則義が東京府の官吏だった時の上司が、漱石の父・小兵衛直克だった縁からです。ところが、則義が直克にたびたび借金を申し込んできたことを快く思わなかった直克が、「上司と部下というだけで、これだけ何度も借金を申し込んでくるのに、親戚になったら何を要求されるかわからない」と言って、破談にしたそうです。

2.駄洒落(だじゃれ)に由来するもの

(1)二葉亭四迷(本名:長谷川辰之助)

二葉亭四迷(1864年~1909年)のペンネームの由来は、「予が半生の懺悔」によると処女作「浮雲」に対する自分自身の卑下です。特に、「坪内逍遥の名を借りて出版したこと」に対して、自身を「くたばって仕舞(め)え」と罵ったことによるものです。

彼は1885年に専修学校(現在の専修大学)を卒業後まもなく、坪内逍遥宅に通うようになり、その勧めで「小説総論」を「中央学術雑誌」に発表しています。この時のペンネームは「冷々亭主人」でした。

最初は自分の名では出版さえ出来ずに、坪内さんの名を借りて、やっと本屋を納得させるような有様であったから、是れ取りも直さず、利のために坪内さんをして心にもない不正な事をせるんだ。即ち私が利用するも同然である。のみならず、読者に対してはどうかと云うに、これまた相済まぬ訳である……所謂羊頭を掲げて狗肉を売るに類する所業しわざ、厳しくいえば詐欺である。
之はひど進退維谷ジレンマだ。実際的プラクチカル理想的アイディアルとの衝突だ。で、そのジレンマを頭で解く事は出来ぬが、併し一方生活上の必要は益※(二の字点、1-2-22)迫って来るので、よんどころなくも『浮雲』をこしらえて金を取らなきゃならんこととなった。で、自分の理想からいえば、不埒な不埒な人間となって、銭を取りは取ったが、どうも自分ながら情ない、愛想の尽きた下らない人間だと熟々つくづく自覚する。そこで苦悶の極、おのずから放った声が、くたばって仕舞しめ(二葉亭四迷)!
世間では、私の号に就ていろんな臆説を伝えているが、実際は今云った通りなんだ。

「文学に理解のなかった父親に罵られた言葉による」というのは、誤った俗説です。

(2)直木三十五(本名:植村宗一)

直木三十五(さんじゅうご)(1891年~1934年)といえば、その名を冠した文学賞の「直木賞」で知られているぐらいで、小説家としてはあまり知られていませんし、その評価はそれほど高くないようです。

「直木」は本名の植村の「植」を分解したもので、「三十五」は年齢を元にしたものです。

31歳の時に、「直木三十一」のペンネームで「時事新報」に月評を書いたのが文筆活動の始まりで、以後誕生日を迎えるたびに、「三十二」「三十三」と改名していました。

34歳の誕生日を迎えた時に、本人は「直木三十四」と書きましたが、編集者が勘違いして「直木三十三」と書き直してしまい、本人はそれを訂正せずにしばらく使っていました。

しかし「三十三」は字面が良くないと言われたり、あるいは「散々(さんざん)」と読むことができたり、「味噌蔵(みそぞう)」と呼ばれることを嫌って、「直木三十五」に改名したそうです。

それ以降改名することはありませんでしたが、理由は「三十六計逃げるに如かず」と言われるのが嫌だったからだそうですが、菊池寛から「もういい加減に、年齢とともにペンネームを変えるのはやめろ」と忠告されたからだとも言われています。

大阪人らしく、ふざけたり面白いことが好きな「いちびり精神」の持ち主だったようです。

(3)阿佐田哲也(本名:色川武大(いろかわたけひろ))

阿佐田哲也(1929年~1989年)は、「麻雀放浪記」などで有名な麻雀小説家・雀士です。

このペンネームは、麻雀を打っているうちに徹夜してしまい(いわゆる「徹夜マージャン」)、思わず「朝だ!徹夜だ!」と言ってしまったことから付けたそうです。

なお、彼は「色川武大(いろかわぶだい)」のペンネームで「離婚」などの小説も書いています。

3.外国人の名前をもじったもの

(1)江戸川乱歩(本名:平井太郎)

江戸川乱歩(1894年~1965年)は、「怪人二十面相」「少年探偵団」などで有名な推理作家ですが、このペンネームはアメリカの小説家で「探偵小説の祖」と呼ばれるエドガー・アラン・ポーをもじったものです。

(2)朝松健(本名:松井克弘)

怪奇小説家の朝松健(1956年~ )のペンネームは、イギリスの怪奇小説家アーサー・マッケンをもじったものです。

(3)依井貴裕(本名:非公開)

推理作家の依井貴裕(よりいたかひろ)(1964年~ )のペンネームは、アメリカの推理作家エラリー・クイーンのイニシャル「E.Q.(いいきゅう)」をもじったものです。「依井貴裕」は音読み(ただし、「井」の音読みは「せい」ですが、これは目をつむりましょう)すると「いいきゆう」となるからです。

(4)久石譲(本名:藤澤守)

作曲家の久石譲(ひさいしじょう)(1950年~ )のペンネームは、アメリカの作曲家クインシー・ジョーンズをもじったものです。

4.女性が女性(男性が男性)であることをカモフラージュするための異性風か中性的な名前

(1)女性が男性風もしくは中性的な名前を使用している例

①尼子騒兵衛(本名:片根紀子)

尼子騒兵衛(あまこそうべえ)(1958年~ )は尼崎市出身の漫画家です。代表作は「落第忍者乱太郎」です。

②さとうふみや(本名:佐藤文子)

さとうふみや(1965年~ )は埼玉県大宮市出身の漫画家です。代表作は「金田一少年の事件簿」です。

③髙村薫(本名:非公開)

髙村薫(たかむらかおる)(1953年~ )は大阪市出身の小説家です。代表作は「黄金を抱いて翔べ」です。

④大今良時(本名:非公開)

大今良時(おおいまよしとき)(1989年~ )は大垣市出身の漫画家です。代表作は「マルドゥック・スクランブル」です。

(2)男性が女性風もしくは中性的な名前を使用している例

①北村薫(本名:宮本和男)

北村薫(1949年~ )は埼玉県北葛城郡杉戸町出身の小説家、推理作家です。代表作は「空飛ぶ馬」です。

②内山亜紀(本名:野口正之)

内山亜紀(1953年~ )は東京都板橋区出身の漫画家です。ロリコン漫画を数多く書いています。

③美水かがみ(本名:非公開)

美水(よしみず)かがみ(1977年~ )は埼玉県幸手市出身の漫画家です。代表作は「らき☆すた」です。

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